マチ弁出身の元裁判官が語る問題点 国民審査を経験して気づいたこと

2021衆院選

阿部峻介
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 衆院選と同じ31日、最高裁判所の裁判官を市民がやめさせるかを決める「国民審査」が行われる。ただ実際に解職された例はなく、形骸化(けいがいか)も指摘される。審査はどのようにあるべきなのか。

 制度があっても誰も解職されていないのはおかしいのでは? そう問われるたび、元最高裁裁判官の山浦善樹(よしき)さん(75)は「違うと思う」と答えてきた。

 「やめさせようと思えるだけの情報があって(罷免(ひめん)すべきだという)×印を付けるなら裁判官も『なるほど』となる。でも理由がないなら意味がない。問題は、裁判官が顔の見えるような情報を発信してこなかったことでしょう」

 国民審査の前には、裁判官の顔写真や心構えなどが載った「審査公報」が各世帯に届く。約30年間、地域住民の悩みや苦しみに寄り添う「マチ弁(町の弁護士)」をしてきた山浦さんでも、読み込んだことはなかったという。「公平妥当に」「法律に従って」という決まり文句ばかり並ぶからだ。

 「そんな当たり前のこと書かれても、響かない」。山浦さんは、判事に就任後の2012年、マチ弁として出会ってきた依頼者を思い浮かべながら、裁判官としての信念を審査公報に書いた。「市民は本当に法律によって守られているのか」「戦う武器を持たない市民の悲鳴を聞き出すことに全力投球する」――。少しして「強く心打たれました」と書かれたはがきが有権者から届いたといい、「よかった、ちゃんと心を込めれば届くんだ」と思ったという。

 こうした経験から、後輩の裁判官には、自分を表現する努力をしてほしいと考えている。「例えば毎年1回、裁判官のインタビュー動画を公開したらどうか」。本当の信頼や権威は肩書ではなく「やりとりの中にこそ宿る」と思うからだ。

専門家「審査方法、改革すべきだ」

 最高裁の裁判官は、時に人の暮らしや運命をも変える。夫婦同姓の憲法判断を初めて示した15年、裁判官15人のうち自身を含め5人が「違憲」とした。「あと3人が違憲といえば、この国の法律が変わっていた」。それほどの力を、どう使うのか。国民審査をきっかけに、国民との対話を深めてほしいと山浦さんは願う。

 最高裁研究をする明治大学の西川伸一教授(政治学)は「審査方法の改革も必要だ」と指摘する。やめさせるべきだと思う人に×印をつけ、白票を「信任」と扱う現行制度を「有権者の投票実感がわかないし、裁判官の自省にもつながらない」と批判。米国の事例を参考に、信任を示す○印も同時に書ける仕組みに見直すべきだと提唱する。(阿部峻介)

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