最初は嫌だったアフガニスタン行き 「紛争地の看護師」の戸惑い

有料会員記事アフガニスタン情勢

聞き手・笠原真
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 シリアイエメン南スーダン――。国境なき医師団(MSF)の看護師、白川優子さん(47)は2010年以降、世界中の紛争地で医療活動をしてきました。派遣回数は計18回に上ります。

 今年8月にはイスラム主義勢力タリバンが権力を握った直後のアフガニスタンに入り、5週間にわたり活動しました。

 経験豊富な白川さんも、今回は初めて「紛争地に行くことに戸惑いを感じた」と言います。なぜだったのでしょうか。帰国後、白川さんに聞きました。

しらかわ・ゆうこ 埼玉県出身。看護師として国内やオーストラリアの医療機関で勤務。2010年に国境なき医師団に登録し、スリランカを皮切りに、イエメンシリア南スーダンの紛争地などで医療活動に従事してきた。著書に「紛争地の看護師」(小学館)。

 ――10月までアフガニスタンで活動してきましたね。

 私が今回の活動場所だった南部ヘルマンド州のラシュカルガに入ったのは8月26日。タリバンがほぼ全土を制圧し、戦闘が終結した後でした。その日はカブールの空港で大きな爆破テロが起きた日です。空港周辺ではそれ以前から混乱が続いていたので、隣国のタジキスタンからラシュカルガに入りました。

 治安状況については入国前から説明を受けていて、かなり慎重に構えていました。しかしラシュカルガに入ると、目に入ってきたのは当たり前の日常。市民が買い物し、子どもたちが遊ぶ姿がありました。ただ、こうした日常の裏には、苦しみを抱える人たちの姿もあることを滞在の中で知ることになりました。

 ――どのような現場で活動したのですか。

 職場はラシュカルガにある州立ブースト病院という総合病院でした。私は日本で言う看護部長のような責任者の役割で、手術室で働く看護師や看護助手、滅菌室のスタッフ、清掃員らを一つのチームとして、24時間対応できるよう二つのチームをまとめていました。

 ブースト病院は人口130万人を擁する地域の基幹病院です。院内で働くスタッフは800人もいて、救急や外科、入院病棟、産科、小児科などがあります。緊急外来には一日に多くて800人以上の患者が殺到し、300床ある入院病棟は常に満床でした。

現在はMSFの日本事務局で勤務し、海外での看護師らの活動をサポートする仕事をしている白川さん。そんな中、自らアフガニスタンに行ったのはなぜだったのでしょうか。記事後段で、派遣を打診された際の本音とともに、その背景を明かしています。

 ――なぜそのような状況になっていたのでしょうか。

 タリバンが権力を握ったことで、欧米などからアフガニスタンへの資金援助が停止した影響が非常に大きいです。資金のない医療機関は運営停止、もしくは閉鎖に追い込まれました。

 ブースト病院はMSFが支援しているため、活動を続けられていました。しかし他の病院から患者が回ってきた結果、殺到する状況になっていました。治療の優先順位を決めるトリアージをしたり、小児科では一つのベッドを2組の患者で分けて使ったりしてもらわざるを得ませんでした。栄養失調の子どもが多く、呼吸器の疾患などを抱える子どもが複合的な要因で毎日のように亡くなっていきました。

国際社会に訴え 「支援継続を」

 ――忙しい日々の中で心が落ち着く瞬間はありましたか。

 「日本ではどんな映画が上映されているの?」と聞かれたり、色んな冗談を言われたり。スタッフのみんなとのおしゃべりはすごくほっとする時間でした。スタッフはみんな明るく、私を歓迎してくれて、いつも話しかけてくれていたんです。

 でも、ある女性スタッフから言われた一言に胸が引き裂かれそうになったことがあります。「明るい人も、その笑顔の裏で、心では泣いているんだよ」って。8月まで続いた戦闘に巻き込まれて自宅が破壊された人や、物を強奪された人もいたんです。これからアフガニスタンの人たちが生活していくには、国際社会が支援を継続することが必要です。

 ――ラシュカルガだけでなく、アフガニスタン全土で市民の生活は厳しい状況なのでしょうか。

 現在、人口の半数以上の1840万人が4年前の6倍もの人道支援が必要だと推定されています。物流が滞り、食糧や医薬品などが手に入りにくくなったり、通貨が下落した影響で燃料などの価格も上がったりし、市民の生活を直撃していました。その日のパンも買えない人もいます。ブースト病院のスタッフの中にも、燃料が買えずに車通勤をやめ、乗り合いタクシーで出勤する人が出てきていました。しかし今度は乗り合いタクシーが運賃を値上げし、結局自家用車の方が安く上がるのでは、という状況がありました。

 ――新型コロナウイルスの感染状況はどうでしょうか。

 当然、アフガニスタンでも感染は拡大しています。現在までに15万人以上が感染していますが、入院率は8・8%、少なくとも1回ワクチン接種を受けた人も2・2%と非常に低いです。これは新型コロナよりも日々の暮らしが深刻だからです。市民にとっては「コロナどころじゃない」のです。

かつての自分と、考え方に変化

 ――ところで、今回は白川さんにとって3年ぶりの派遣だったそうですね。

 私は現在MSFの日本事務局で採用を担当していて、スタッフを採用し、活動地に送り出す仕事をしています。ところが8月5日の朝一に、現在の上司から一本の電話がありました。「アフガニスタンへの派遣の話がある」と打診されたのですが、その時私は「え、私が行くの? 他にいないの?」と思いました。「紛争地での経験が豊富」で「すぐに現地に飛べる」人材が求められていて、私に白羽の矢が立ったようでした。ただ、アフガニスタンタリバンが勢力を広げているという報道はもちろん私も見ていて、紛争地に派遣されることを「嫌だな」と思ってしまったんです。このような感情が芽生えるのは、MSFに参加してから初めてでした。

 2010年から18年までは…

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