母の袖を握り「話を聞こうよ」と娘が涙 遺伝外来で母が出した答えは

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浜之上はるか
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 様々な目的で遺伝カウンセリングが利用されますが、相談者の期待に応えられないこともあります。横浜市大病院遺伝子診療科の浜之上はるかさんのアピタルコラム「おなかの中の命を見つめて」です。

 私が担当し、忘れられない経験となった、ある相談事例を振り返ります。

 相談者は当時の私より少し年上の40代女性、中学1年生の娘を連れて来談されました。相談内容は、娘にX連鎖性遺伝疾患の保因者診断を受けさせたいというものでした。

 まず、X連鎖性遺伝疾患を説明します。

 X連鎖性遺伝疾患は、X染色体上にある遺伝子の配列変化が原因で発症するものです。女性の多くはX染色体を2つ持つため、女性は片方のX染色体に変化した遺伝子があっても、もう片方の正常な遺伝子の働きによって無症状か、男性ほど症状がはっきりしません。一方で、男性の多くはX染色体とY染色体が1本ずつなので、変化した遺伝子を補うことができません。そのため、X連鎖性遺伝疾患の場合、症状がはっきりと出るのは男性がほとんどです。

 ただ、女性であっても、症状のある男性と近親の女性は「保因者」かもしれません。その場合、罹患(りかん)男児や再び保因女児を授かる可能性があります。ちなみに、保因女性では、個々の事例や疾患の重症度にもよりますが、あらかじめ調べておいて罹患のある受精卵を移植しない着床前検査や、胎児の罹患の有無を調べる出生前検査の検討がなされることもあります。

 話を戻します。

 相談者の兄は、幼少期にその疾患になり、関連症状によって高校生で他界されています。相談者自身も保因者である可能性があり、だとすれば、娘も同じ状況かもしれず、娘が罹患男児を授かることもありうるのではとご心配されていました。

 相談者は、幼い頃から兄の様子を近くで感じ、多感な時期に兄の死に接しました。ご自身は健康で、夫、そして長男、長女に恵まれましたが、恋愛、結婚、妊娠、出産の際には、常に疾患が身近にあるという恐怖におびえてきたようです。

 「自分と同じ思いはさせたくない、はっきりさせてやりたい」と、初経を迎えた大切な我が子に保因者診断(遺伝子検査)を受けさせたいと思ったとのことでした。

 来談時点で、娘の検査をして…

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浜之上はるか
浜之上はるか(はまのうえ・はるか)横浜市立大学附属病院遺伝子診療科講師
2000年東海大医学部卒。横浜労災病院産婦人科、横浜市立大学附属病院遺伝子診療部助教などを経て、18年から現職。産婦人科専門医・指導医、臨床遺伝専門医・指導責任医。日本遺伝カウンセリング学会の評議員・倫理問題検討委員を務める。