台湾の作家・呉明益さん 少年工だった父の視点で描く日本の戦争

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中村真理子
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 台湾文学を代表する一人、呉明益(ごめいえき)さんの邦訳が相次いでいる。近刊『眠りの航路』(倉本知明訳、白水社)は作家にとって最初の長編。英ブッカー国際賞の候補に入り、高く評価された代表作『自転車泥棒』(天野健太郎訳、文春文庫)につながる物語で、原点といえる作品だ。日本の歴史にも深く関わるこの長編を中心に、オンラインで話を聞いた。

 1971年、台北生まれ。97年にデビューした。邦訳が最初に出たのは2015年の『歩道橋の魔術師』(天野訳、白水社)。80年代の台北を舞台に、幻想と懐かしさが入り交じる連作短編集だ。今年4月には気候変動や環境汚染を寓話(ぐうわ)に包んだ『複眼人(ふくがんじん)』(小栗山智訳、KADOKAWA)、10月には短編集『雨の島』(及川茜訳、河出書房新社)も刊行された。著書は英語、フランス語、トルコ語など10カ国以上の言語で翻訳されている。「台湾は世界から見れば周縁です。自分の作品が翻訳されるとは思ってもいなかった」。話しぶりは謙虚で穏やかだ。

 『眠りの航路』は台湾では07年刊行。睡眠に異常を来した「ぼく」と、少年時代の父の記憶が重なってゆく。失踪した父はかつて少年工として日本軍の戦闘機製造に関わっていた。太平洋戦争末期に海を渡り、「三郎」という日本名を与えられて、「天皇の本当の赤子になって」「白いお米を食べられる」ことを夢見ていた父は、戦後故郷に戻っても日本語を使い続け、「日本紳士(リップンシンスゥ)」と周りに冷笑された。

 「ぼく」の視点と、「三郎」の視点を行き来しながら物語は進む。呉さんの父親も台湾人少年工の過去があるという。「私たちと親の世代では受けてきた教育が違う。そこから生まれる考え方も違う。見知らぬ世代を観察するように向き合いました」。世代を超えた記憶の継承は、呉さんにとって大きなテーマだ。「上の世代が語る戦争は、私たちの世代にはうそのように聞こえますが、それこそが彼らにとっての現実でした。私は親の世代に不満を持っていましたが、この小説を書くことでむしろ、私が彼らを理解できていなかったと気づきました」

 台湾人の少年に、あの戦争は…

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