「上級国民」「1人で死ね」、悪意のことばが映す時代性 磯部涼さん

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聞き手・小峰健二
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 前回衆院選からの4年の間に、改元という大きな節目があった。平成から令和への改元前後に起こった事件を題材に『令和元年のテロリズム』(新潮社)を書き上げたライターの磯部涼さんは、事件をめぐって投げかけられた言葉にも注目した。「上級国民」「1人で死ね」――。それらが意味する、この時代の空気とはなにか。

改元の「リセット」はなく

 ――今年刊行された『令和元年のテロリズム』で、平成から先延ばしにされた様々な問題がテロル(恐怖)として表出した事件を検証していきます。2019年5月の改元直後に川崎市多摩区登戸で起きた小学生ら20人殺傷事件(5月28日)や、元農林水産事務次官による長男殺害事件(6月1日)、京都アニメーション放火殺人事件(7月18日)です。また、改元前ですが、東京・池袋乗用車暴走事故(4月19日)についても紙幅をとって書かれています。改元前後に起こった事件に注目された理由は何でしょうか。

 どの時代、年にも陰惨な事件は起きていますし、殺人事件の件数は年々少なくなっていく傾向にあるので、特に令和の改元前後に凶悪事件が頻発したわけではないとは思います。ただ、あえて観測期間を改元前後にすることで、事件の背景が見えてくるのではないかと考えました。

 川崎の事件では死亡した犯人が、元農水事務次官の事件では殺害された長男が、「ひきこもり」だったと報道されたことから、「8050(ハチマルゴーマル)問題」という言葉が注目されましたが、平成の間に山積みにされていた問題が何も解決されないままであることが見えてきました。もともと改元は、歴史上、災害の後などになされたように社会をリセットする機能があります。しかし、リセットどころか、日本社会がごまかしてきた問題が改元前後の事件であらわになった。改元直後の約3カ月に起きたことは、象徴的な問題として捉えられると思ったということです。

 じっくりと一つの事件を見たり、そこで発せられた言葉について考えたりすることで、「これはどう考えても時代の象徴として捉えられるだろう」というものが浮かび上がってくるのだと思います。私の思考実験として浮上したのが三つの事件だったわけですが、改元前の池袋暴走事故についても考える必要がありました。『令和元年のテロリズム』の中の象徴的な言葉でいえば、「上級国民」が時代を反映していたと思います。

議論先行の「親ガチャ」

 ――本の中で、上級国民が使われるようになったのは、東京五輪の公式エンブレムを巡る15年の騒動がきっかけだと言及されています。ただ、頻繁に使われるようになったのは近年ですね。

 例えば、「親ガチャ」も時代を反映しているとは思いますが、はやっているというよりも、「親ガチャという言葉がどうやらあるらしい」とツイッターで話題になって、あっという間に新聞やネットニュースでの議論が盛り上がったという印象があります。それほど子どもが使っていたのかどうかは疑問ですし、まず議論が先になってしまったのではないか。

 そういう意味では、上級国民…

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