自助、共助といわれても やり直せる社会つくるにはどうしたら 

小若理恵
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緊急事態宣言中は室内の利用が制限され、テラスが居場所になった。週1回のグループワークで互いの近況や悩みを共有している(写真の一部を加工し、利用者1人の顔をぼかしています)=2021年9月16日午後5時19分、大阪市西成区、小若理恵撮影
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 日雇い労働者が多く暮らす大阪市西成区のあいりん地区(通称・釜ケ崎)のほど近く。ある日の夕方、生活保護受給者に社会参加をうながす拠点施設「どーん!と西成」に、30~60代の男女7人が集まった。

 「今日の気分はどうですか」。NPO法人釜ケ崎支援機構の職員、岡崎由利さん(29)が笑顔で声をかける。テーブルを囲んで座る参加者たちが順番に「首が痛くてちょっとゆううつ」「最近しんどい。気分の波をなんとかできるようにがんばりたい」と、話し始めた。

コロナ禍のいま

コロナ禍を経て、観光や保育、畜産、町工場といった現場がどう変わり、何を望むのか。大阪のいまを取材した。

 15~64歳の「稼働年齢層」にありながら生活保護を受給する人が週1回、集まって近況などを語り合うグループワークの時間。精神保健福祉士などの資格を持つ岡崎さんら職員は、利用者が困っていることを見つけ、規則正しい生活を送るための手助けや、就労に向けた支援をしている。

 利用者は現在約60人。土木作業などの日雇い労働はできても、定職に就くことが難しい人がいる。背景に精神障害や知的障害があったり、対人不安、アルコールやギャンブルへの依存など課題を抱えていたりすることが少なくない。

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緊急事態宣言中は自由に室内を利用できなくなったが、健康維持のために体を動かす時間なども設けている=2021年9月17日午後2時34分、大阪市西成区、小若理恵撮影

 職員は利用者と面談を重ね、一人ひとりの実情と課題を見極め支援策を立てる。必要に応じて医療や福祉サービスにもつなげる。

 岡崎さんらの支援活動は、西成区が2019年度から独自に始めた事業。釜ケ崎支援機構などの民間団体が実務を担っている。岡崎さんは「利用者が何につまずいているか、どこにサインがあるか小さな種拾いをするのが私たちの仕事。一緒に手立てを考えたい」と話す。

生活保護受給率が突出

 西成区の生活保護受給率は今年7月時点で22・69%。国の1・63%、大阪市全体の4・83%に比べ突出して高い。前政権は政策理念に「自助・共助・公助」を掲げてきたが、そもそも身寄りがなく、教育機会や社会経験が乏しい困窮者にとって「自助・共助」をめざすこと自体に高い壁がある。

 西成区総務課企画調整担当課長代理の狩谷健三さん(41)は「これまではホームレスの人たちをいかに畳の上に上げるかに重点を置いてきた」と話す。今後は、地域全体で弱者を支える「社会的包摂力」を生かし、ノウハウを持つ民間団体と連携して被保護者の再出発を支える仕組みづくりに力を入れたいという。

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全国の生活保護受給世帯数と申請件数

 厚生労働省によると全国の生活保護申請件数(概数)は2020年度、22万8081件(前年比2・3%増)に上り、11年ぶりに増加に転じた。コロナ禍で生活苦に陥る人が増えたとみられる。

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 「どーん!と西成」では、コロナ禍前まで午前9時から午後6時まで居場所として施設を開放していた。しかし、緊急事態宣言中は午後3~6時に利用を制限。施設から足が遠のき、生活リズムが崩れてしまう人がいた。

 イライラから職員に暴言を吐く人も。釜ケ崎支援機構の職員、笠井亜美さん(35)は「失敗してもいいから、利用者が安心して戻ってこられる存在でありたい。政治家には、傷ついた人や弱い立場にある人がやり直せる社会をつくってほしい」と訴える。(小若理恵)

「命を守れ」の先が大事

 貧困問題に詳しい関西学院大の白波瀬達也准教授(社会学)の話 機械化や外国人労働者の流入によって単純労働で生活が成り立ちにくくなっている。コミュニケーションや知識など仕事に求められる能力が高度化している今、社会の分極化、格差がますます進んでいる。さらにコロナ禍で「公助を拡大し、命を守れ」という声が高まっているが、大事なのはその先のステップだ。困窮者の能力や適性を見極め、就労やボランティアなどの社会参加につなげるには、専門性がある人材による丁寧なマッチングが欠かせない。社会からこぼれ落ちる人をいかに防ぐか、国は予防策や教育にも力を入れるべきだ。