第35回「アベノミクス」の功罪、北海道9区で論戦 トヨタも動いた

2021衆院選

西川祥一
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 「組織をギリギリまで固める」「企業票を最後まで上積みする」。衆院選の選挙戦終盤、激戦区の陣営ではこんな言葉が飛び交っている。北海道の苫小牧、室蘭両市を含む胆振、日高地方を選挙区とする北海道9区。立憲前職の山岡達丸氏(42)、自民前職の堀井学氏(49)による与野党一騎打ちとなった同区では、安倍政権から続く経済政策アベノミクス」の功罪が、論戦のテーマになっている。

選挙区を歩く@北海道

 衆院選が公示され、道内各地で激しい選挙戦が展開されています。北海道の各選挙区で問われる政策課題や選挙戦の状況を追います。今回は改めて道9区を歩きます(随時掲載します。候補者の年齢は投開票日現在)

 22日、道内を遊説して回った岸田文雄首相は堀井氏を応援するため、最後の訪問地に苫小牧市を選んだ。夕方、岸田首相が堀井氏の事務所に到着した際の出迎えの中に、トヨタ自動車北海道(苫小牧市)の北條康夫社長の姿があった。車から降りた岸田首相と北條社長は名刺を交換し、あいさつを交わした。

 自民に近い財界の有力企業のトヨタ自動車。これまで道9区では、トヨタ北海道が選挙で目立った自民支援の動きをしたことはなかった。しかし近年、自動車業界ではガソリン車から電動車への転換の流れから、カーボンニュートラル(脱炭素、CN)への対応が急務となっている。そうしたなかでのトヨタグループ企業の自民への「接近」は、経済界でCNに関わる政策対応の必要性が高まっていることをうかがわせる。

 堀井陣営にとって、トヨタのこうした動きは渡りに船だ。終盤にかけ、系列や下請け企業からの支援を上積みできると期待する。

 さらに陣営が企業から支援を得るキーワードとして挙げるのが「アベノミクス」だ。

 28日夕、苫小牧市の建設会社の駐車場に、建設や土木、製造の会社幹部ら千人を超える人が集まった。登壇したのは安倍晋三元首相。同市では7月に続く2度目の訪問となる。

 2012年の第2次安倍政権発足時を振り返り、「『3本の矢』といわれたアベノミクスで有効求人倍率は1を超え、まっとうな社会、経済を作り上げた」と強調。政治の使命は経済のなかでも、雇用、働く場の確保だとした。

 さらに、年金制度に触れ「15歳から65歳の年金の支え手が500万人増えた」と成果も強調した。

 堀井氏は、公約の北海道電力泊原発の再稼働で電力料金を引き下げ、選挙区内の企業や家計を守ると訴えた。陣営幹部は「森友、加計学園桜を見る会と、いろいろ問題もあり、安倍さんはマイナスになるかとも考えた。しかし、最後の最後は、身内を固めるのが定石。アベノミクスの円安株高で恩恵を受けた企業やその従業員にアピールすれば、一層票固めに動いてくれる」と話す。

 対する山岡氏。27日は午後から室蘭市を回り、夕方、同市の商店街で、連合北海道の杉山元会長を迎え、アベノミクス批判を展開した。

 円安と株高について、「株の運用で暮らしている人がどれだけいますか。豊かな人がより豊かになっただけ。額に汗して働く人、年金暮らしの人にとって、野菜、果物、肉という必需品が値上がりして、生活はよくならなかった」と主張。経済政策の転換と、消費税所得税を対象にした期間限定の生活減税の必要性を訴えた。杉山会長も「岸田首相は所得の再分配をするというが、具体性は示さない。選挙目当ての発言だ」と話した。

 別の街頭演説では、新型コロナウイルスのワクチン接種で打ち手確保に協力したという「メッセージ」を読み上げ、自民を応援してきた地元医師会の政治団体の推薦を受けたことを強調し、保守層にアピールした。29日は苫小牧市役所前で、アベノミクス批判を掲げる枝野幸男・立憲代表とともに、「政権交代」を訴える。(西川祥一)

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