「芝居で食っていく」劇団四季の舞台が生まれるまで 池井戸潤が迫る

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文・写真 池井戸潤 映像報道部・杉本康弘、「好書好日」編集長・加藤修
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池井戸潤が撮る 日本の工場

 作家の池井戸潤さんが仕事の現場を訪ねる企画が、朝日新聞土曜別刷り「be」で連載中です。今回はいつもと少し趣向を変えて、劇団四季の舞台作りです。埼玉県川口市で、スタッフたちの技術の粋にカメラとペンで迫ります。デジタル版では池井戸さんが撮影した写真をたっぷりご覧いただけます。

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 戦争の記憶も生々しい1953年7月14日、日本の演劇界にひとつの革命が起きた。

 劇作家・加藤道夫のもとに集結した浅利慶太ら、慶應義塾大学と東京大学の学生たちが中心となって立ち上げた劇団がそれだ。

 その名は、劇団四季。

 なぜ革命なのか。採算が度外視され、舞台以外で稼いだ金を舞台に注ぎ込み、役者は赤貧に甘んじるのが当たり前のようになっていた新劇時代に、「役者が芝居だけで食っていく」ことを目標に掲げたからだ。

 旗揚げ時の団員、わずか10人。

 それから68年が経ったいま、劇団四季は所属俳優約700人、演出、経営スタッフ各約350人という世界最大の規模へと成長した。その全員が劇団からの給料やギャラで生計を立て、副業にいそしむことなく舞台に打ち込む、正真正銘のプロ集団ができあがった。日本の演劇に革命を起こさんと、わざわざフランス革命の記念日に旗揚げした若者たちの夢が結実したのだ。

 さてこの朝。埼玉県の川口駅前にある川口総合文化センター・リリア裏手の搬入口に、劇団四季のスタッフ、アルバイトなど50人ほどが集結していた。

 同センターで夜ひらかれる公演のための舞台づくりがこれから始まるのだ。

 演目は、ファミリーミュージカル『はじまりの樹の神話~こそあどの森の物語~』。

 『キャッツ』『オペラ座の怪人』『ライオンキング』『アラジン』など、劇団四季のヒットミュージカルは多数ある。どれも大都市の大型劇場でのロングラン公演が定着したスタイルだ。そしてロンドンのウエストエンドやニューヨークのブロードウェー発。

 これに対して『はじまり~』は、劇団四季の若手が中心になって立ち上げた、オリジナルのミュージカルである。

 午前9時の開場とともに搬入口にトラックをつけ、スタッフたちが次々と荷物を劇場内に運び始めた。「乗り打ち」と業界用語で言われる、移動先での舞台設置の始まりである。

 照明や音響といった機材に小道具、そして舞台でもっとも目立つ大道具。もしこれがブロードウェー・ミュージカルのセットだったら、著作権の観点から撮影は難航しただろうが、今回は太っ腹の劇団四季さんから「何を撮ってもオッケー」との了承を得た。ありがたい。

 舞台監督を囲んで作業の段取りや危険箇所などの注意事項を打ち合わせた後、技術スタッフたちによる設置が始まった。

 ここに集うのは、技術、業績とも国内トップクラスの精鋭たち。劇団四季といえば俳優の演技や歌唱、ダンスばかりが注目されがちだが、実は裏方もまたそれに勝るとも劣らぬ技能集団なのである。

 まず、舞台上にリノリウムの…

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