「多様な人が安心できる世に」 福島で感じた経済格差

2021衆院選

笠井哲也
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 2000年代に入り、雇用の形が大きく変わり、経済格差が広がった。そこに追い打ちを掛けたのがコロナ危機。経済活動が止まり、働き手には不安が広がった。福島市を歩くと、各地で悲痛な思いを感じた。格差是正のための「分配」のありようも争点となる衆院選は31日に投開票される。

 21日午前9時過ぎ、市のシンボル信夫山のふもとにあるハローワーク福島に着いた。すでに駐車場は約20台の車で埋まり、ひっきりなしに人が訪れる。

 利用者はざっと見て女性が6割。この日が失業の認定日だったという伊達市の女性(56)に出会う。4月、勤め先の工場が正社員を派遣社員に切り替える規模縮小を決めたために「退職」したという。夫も6月に失職し、今は職業訓練に通っている。発達障害を抱える女性は「多様な人が細々とでも働いて、安心して暮らせる世の中にしてほしい」と言った。

 福島県の労働者の賃金はここ10年間、ほとんど上がっていない。国全体でもここ30年は横ばいだ。背景には賃金の低い非正規の労働者が全体の4割近くに増えたこともある。不安定な働き方が社会を覆う。

 午後0時25分、JR福島駅前のファストフード店に水色のバッグを背負い、加藤大政さん(22)がやって来た。飲食宅配代行サービス「ウォルト」の配達員で、オンライン上でその場限りの仕事を請け負う。「ギグワーク」と呼ばれる新たな働き方だ。「働きたい時に働けるのがいい。面と向かって人と接することもないので楽ですね」

 報酬は配達1件あたり約500円で、時給換算すると1500円ほど。周辺の飲食店の時給よりも稼げるという。店で注文の品を受け取ると、スマホで配達先を確認。駅前のレンタサイクルで南へ向かった。

 「自由」に見える仕事だが、必ずしもそうでない。配達員は個人事業主で、雇用契約はない。企業が決める報酬が、かりに最低賃金の水準を下回っても「自己責任」。力関係では、圧倒的に企業が上だ。情報通信技術の発達は「使う側」と「使われる側」を、よりはっきりさせている。

 午後4時半、郊外にある吉井田学習センターに子どもが集まってきた。お目当ては、子ども食堂「よしいだキッチン」が開く縁日の催しだ。くじ引きをして駄菓子をもらった子どもたちが白い歯をのぞかせた。

 よしいだキッチンは18年7月、地域でつながりの場をつくろうと始まった。月に1度、子どもと大人約100人が夕食を食べて遊び、その中で、一人親や外国にルーツを持つ家庭の相談にも乗ってきた。

 だが、主宰する江藤大裕さん(45)は「コロナで人と会うことが制限され、声をあげづらくなり、困窮している人がより困窮するようになっている」と感じるという。政治には「10年、20年後に子どもや保護者が笑顔になる施策」を期待する。衆院選では、各党が公約で子育て世帯や低所得世帯への現金給付を掲げている。その一方で、子どもの将来をみすえた議論は圧倒的に少ないように感じる。

 午後8時45分、福島市の歓楽街のスナックでは、男性客3人がカウンター越しに女性店員との会話を楽しんでいた。奥には10人以上が座れる場所があるが、誰もいない。

 テーブル席に腰掛けると、現れたのはクリーム色のニット姿の36歳シングルマザー。小学校と幼稚園に通う子ども2人を育てている。昼の飲食店のアルバイトでの稼ぎは月6万円で、月約14万円が入るこの仕事が頼り。夜は子どもを母と兄に預けているという。

 大変ですね。安易にそんな言葉をかけてしまった自分が情けない。「『子どもが多感な、大事な時期に一緒にいてあげないと』ってお客さんにも言われるよ。その度に悔しくて泣きそうになる。ダメな母親だって思っている。でも、こっちもギリギリ」。今、望むことは?「女性でも正社員で、収入が高い仕事に就けたら苦労しないのかな」

 黒いスカート姿の大学3年生(21)は午後7時ごろに大学の授業を終え、午後8時からこの店で働く。聞けば、ホテルやカラオケ店などアルバイトを五つ掛け持ちし、翌日午前1時からはカラオケ店での勤務が待っているという。

 親の支援は頼れず、年100万円の授業料、月5万円の家賃などはすべて自分でやりくりする。だが、コロナでスナックやカラオケ店が休みになってお金が回らなくなり、4月には月5万円の貸与型奨学金を申し込んだ。将来返さなければならない「借金」だ。

 政治に求めることはシンプルだ。「月3万円くれるだけでも助かる。学生を支援してほしい」。夢は子ども向けにご飯を提供する食堂をつくることだという。

 午後10時45分、仕事あがりのこの大学生とラーメン店に入った。女性が頼んだのは辛みそラーメンとギョーザ、それに瓶ビール。この日初めてのまともな「食事」だという。15分ほどで食べ終わると、女性は次のバイトに向かった。

 「成長と分配」と首相は言う。だが、これまで通りに成長を求めて、格差は縮められるのか。「新しい資本主義」とも言うが、いったい何が違うのか。具体像は見えてこない。働き手は自分を責めるのではなく、政治にもっと助けを求めていい。そのための一歩が選挙だと感じた。(笠井哲也)

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