シェアハウスが作る「小さな社会」 血縁・属性…違っても支え合える

2021衆院選withU30

御船紗子
[PR]

 東京都中野区内の駅から程近い場所に、シェアハウス「東京フルハウス」はある。入居者計13人は全員30代以下。大学生、会社員、政治家秘書、数学者……。リノベーションを繰り返した家屋は「築年数不明」。隣り合う3階建て住宅2棟に分かれて住んでいる。

 血縁もなく、属性も異なる人々が偶然に集い、一つ屋根の下で一緒に暮らす。一見、独特なコミュニティーにも思えるが、屋根と壁を取っ払って考えてみれば、そこには私たちが身を置く社会と何ら変わらない世界が広がっている。

 「ゲームしまって」。夕方、共用スペースの居間で茂原奈央美さん(36)が息子の醍慈(だいじ)くん(4)に呼びかけた。夫の栗山和基さん(39)が食卓に皿を並べて夕食が始まる。夫妻はこのシェアハウスの運営者。2014年に結婚し、高田馬場、西新宿と移り住んで3カ所目の運営になる。

 板張りの居間の一角には台所。空くのを待ってから、建築家の男性がギョーザを包み始めた。食卓の傍らにあるソファでは、Tシャツ姿の31歳の男性が漫画を読んでいる。

 誰かと接したければ接し、1人で過ごしたければそうする。居間は騒がしくもあり、どこか静かでもある。大好きなビールで晩酌をしていた26歳の会社員と、明るい金髪の20歳の大学生の男性2人が、風呂上がりの醍慈くんと遊んでいる。奈央美さんはその間に家事を片付け、建築家の男性はひとり、焼き上がったギョーザを口に運んだ。

 居間のほか、風呂やトイレも共用。家賃は、広さごとに4万~11万5千円。住人は東京フルハウスの口座に振り込み、夫妻が大家に支払う。共益費1万2千円は、光熱費やゴミ袋代のほか、コメや調味料などの購入代金になる。

 緩やかにつながり合うシェアハウスには、「明文化されたルールはない」(和基さん)。お互いの配慮の積み重ねで、日々の暮らしが回っていく。

 「知らぬ間に廊下がきれいになっていたり、ゴミ出しが終わっていたり。私は何をすればいいのか最初は戸惑った」と、5年前に入居した女性。奈央美さんは「紙ゴミの日、お願い」と依頼した。別の男性は「ライフスタイルがなんとなく決まっている。お互いの邪魔にならないように」と、自分なりのルールを話す。

 奈央美さんにとって、この暮らしは「セーフティーネットの役割もある」という。自分が体調を崩したとき、入居者が醍慈くんの面倒を見てくれた。「昔は親戚や近所ぐるみで育児していた。シェアハウスはそれに近いのかも」

 若者の人生設計にも影響を与えている。大学2年の浅井伶夫(れお)さん(20)は、子育てを身近に感じることで、将来への考え方が変わったという。入居時に2歳だった醍慈くんが、大人たちと元気にしゃべり合っている。「親になることを、同世代の友人よりも解像度が高く捉えられている」。窮屈に思えた結婚も、今では「ありだな」と思う。

 「入居してすぐは距離があっても、だんだん自我が溶け合って、お互いに甘えていいんだと気づく。少しずつ迷惑をかけあい、お互いに尊敬し合っている」。家の中に広がるこの小さな社会を、和基さんはこう表現している。御船紗子

あす投開票

 衆院選は31日、投開票される。個人主義で、政治や社会への関心が低い――。選挙のたび、そんなステレオタイプで語られがちな若者たち。でも、東京フルハウスでは、お互いが支え合い、譲り合い、他者とつながり、自分たちのルールを作り上げて生きる「一つの社会」があった。

 次回は、それぞれの「家」から街に出た若者たちの声に耳を傾ける。今の社会に何を思い、何を願っているのだろう。その眼差(まなざ)しから、選挙を、そしてその先の未来を考える。

【動画】40秒でわかる!衆院選、投票ってどうやるの?

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料
withU30

withU30

これからの時代を生きるU30世代が、社会に対して感じているモヤモヤ。政治や選挙にどんな思いを抱き、何を願っているのか、一緒に考えます。[もっと見る]