ロスジェネ、女性、非正規、単身 不安定な生活は自己責任?

中塚久美子 寺田実穂子 聞き手・真鍋弘樹
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 就職氷河期に社会に出て、今も不安定な雇用に苦しむ。ロストジェネレーションと呼ばれる世代の単身・非正規の女性たちは、現在と将来に大きな不安を抱えています。アンケートでは当事者たちの声も多く寄せられました。この苦境は自己責任なのでしょうか。

頑張っても抜け出せない悪循環

 ロスジェネ世代の2人の女性に、現在地までの道のりを聞いた。

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兵庫県宝塚市職員 原わかささん

 43歳。人生で初めて、正規雇用で働く。中高生の子どもを育てるシングルマザー、原わかささんは今年4月、兵庫県宝塚市に入庁した。

 2019年、就職氷河期世代に限定して採用試験を実施し、全国的に注目を集めた同市。3人の募集枠に全国から計1816人が応募した。原さんは翌年、応募者478人の中から選ばれた3人のうちの一人だ。

 1995年、高校1年の時に阪神・淡路大震災が起きる。なじみのあった教会の炊き出し活動にかかわり、将来の仕事としてぼんやりと「地域に仕えること」を描いた。

 高校を卒業する頃、家計が厳しくなった。原さんは奨学金を受け取りながら短大へ通い、バイトをかけもちした。卒業後は牧師の補佐と塾のバイトで生活費をかせいだ。

 結婚し、東海地方で子育てが始まったが、夫と別居することに。当時最低賃金は時給758円。時給約800円で、内職の高齢女性らが作る手袋を軽自動車で回収した。野菜を分けてくれる女性らに励まされた。

 簿記やパソコンの資格を取得し、2014年、地元に戻って非正規で学校事務などの仕事につく。収入は子育て世帯の平均に遠く及ばない。雇用期間は最長5年。暇さえあれば就職サイトをのぞいた。

 教育費の負担も増えた。「子どもと夕食をともにして話す時間と体力を残したかったから、夜勤の仕事に手を出せなかった。仕事と子育ての両立はぜいたくなことなのか」。そう思い巡らせていた時、宝塚市の採用を知った。

 これまで「勤め先はどこ?」と聞かれるたび、正社員だと思われないような答え方をわざわざしていた。終わりが見えているのに、勤め先を名乗ってよいのか戸惑いがあった。「精いっぱい働き続けてきたけど、自分がどこに所属しているのか分からず、漠然とした不安がつきまとっていた」

 今夏、白紙の履歴書を捨てた。やっと着地できた安心感は、何にも代えられない。

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◆ものまね芸人 すぎもとりょうこさん

 電話オペレーター兼ものまね芸人のすぎもとりょうこさん(38)が、就職活動をしたのは2005年。男女雇用機会均等法が成立して20年にあたる。一人暮らしをして自立するため、総合職を希望した。募集や採用にあたって「男子のみ」などとうたう直接的な差別は禁止されていたが、就活中、あることに気づいた。

 有名大の男子学生らはどんどん就活が進む。関西の女子大に通うすぎもとさんは、1社も面接に呼ばれていない。お呼びじゃないと感じ、女子大に求人を出す企業に絞って飲料販売会社に就職した。

 「体育会系男子の組織が築き上げた営業手法」と振り返る。毎月、上から言われたケース数を売ることが「絶対」の仕事。空しくなり、心の負担になって退社した。

 次に、塗料の材料を扱う商社の社員になった2カ月後、リーマン・ショックに直面。社員が徐々に減った。部内ですぎもとさんだけ、分担が増えた。深夜まで職場で仕事をした。半年続けると、不眠とかゆみで体調が悪化した。「追い込み型退職だったんだ、と後になって思うようになりました」

 退職後、国立大の正規職員を目指し、まず大学事務のパートに就いた。1年勤務すれば、正規職員の採用試験を受けられた。結果は届かなかった。5年雇用で週30時間、交通費なし。現実の生活が厳しかった。

 このままでいいのか。30歳で考えた。子どもの頃から得意だった「ものまね」芸人に挑戦しようと東京へ。ショーパブでバイトし、タレント養成所で学んだ。今は、ものまねをたまにSNSで発信しながら、コールセンター大手に登録し、損保会社の仕事に就く。

 経済力に自信がなく、結婚や出産とは距離を置く。「労働力の価値を下げられ、キャリアをつめない悪循環から抜け出せない。私たちの能力の問題なんでしょうか」

 ものまね芸人の先輩からは、コロナで営業がなくなったと聞いた。中塚久美子

2人に1人 年収200万円未満 首都圏の非正規単身女性 昨秋調査

 年収はほぼ2人に1人が200万円未満で、貯蓄は10万円未満が最も多い。就職氷河期に社会に出た「ロスジェネ世代」に属する非正規単身女性に焦点を当てた最新調査で、そんな過酷な現実が明らかになった。

 調査は2021年3月、横浜市の委託を受けて、公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会がまとめた。当事者アンケートは20年10月に実施し、調査対象は、首都圏在住の34~49歳の働く単身女性計300人。うち非正規が141人で、正規が159人。収入や貯蓄における両者の大きな格差がはっきりと表れた。

 非正規の年収は、200万円未満が44%と半数に近かったが、正規では同様の回答は3・1%に過ぎなかった。また、非正規の8割近くが、300万円未満と答えている。

 貯金額では、非正規は「10万円未満」が最多で、ほぼ3人に1人の30・5%。一方、正規で最も多かった貯蓄額は、「1500万円以上」で、26・4%だった。

 仕事に関する悩みや不安を非正規のみに聞いたところ、「収入が少ない」が53・2%、「雇用継続の不安」が39%で、これがロスジェネ世代の非正規単身女性が抱える「2大困難」だという。

 非正規で働く理由として、39%が「正社員として働ける仕事がないから」と答え、最も多い。協会によると、正規だった時期もあるが、企業のブラックな体質やパワハラなどで辞めざるを得なかった人も少なくないという。

 協会では、当事者約20人が参加する正規雇用化に向けた、キャリアカウンセリングなどのプログラムを開講している。担当する秋葉由美さん(43)は、「非正規として扱われてきた経験から、自分に自信がない人が多い」と話す。会社内で名前を覚えてもらえない、会社の情報が自分に共有されないなど、小さな経験の積み重ねが、自己肯定感をそぐのではないかという。「プログラムを通じて、できないことばかりでなく、できることに目を向け、自信をつけてもらっている」と話す。

 調査を担当した植野ルナさん(46)は、自身もロスジェネ世代で非正規職を経験してきた。「私たちが努力しなかったわけでなく、生まれ年の不運でこうなった。女性が不利な立場に置かれる現在の雇用慣行や不公平な社会保障制度は変えていかなければいけない」と話している。(寺田実穂子)

半数が老後に「生活保護」か 国際医療福祉大・稲垣誠一教授が予測

 就職氷河期に世に出たロスジェネ世代を含む単身・非正規雇用の女性は、約半数が老後に貧困化するという予測があります。非正規で働く未婚・離別の女性には、なぜ落とし穴が待ち構えているのか。この研究をした国際医療福祉大学の稲垣誠一教授に聞きました。

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 日本社会の近未来について、マイクロシミュレーションという手法で調べたところ、約40年後には、未婚、または離別した65歳以上の単身女性のおよそ半数、約290万人が生活保護レベル以下の収入になるという結果が出ました。国民生活基礎調査を元に、結婚、就業、年金、介護などの人生のイベントを、現実と同じ確率で一人一人、くじを引くように決め、のべ1千万人以上の人生をシミュレートした結果です。

 この世代の女性が問題を抱えるのは、男性と比べて非正規雇用が圧倒的に多いからです。低賃金で年金保険料を払えず、貯蓄も少ない人は、老後に少額の国民年金を受けるか、無年金になります。非正規の単身者は男性でも経済的に困窮する恐れが高いのですが、正社員率が高いので女性ほど問題化しません。

 未婚、離別の単身女性が貧困化しやすい理由は、今の社会保障制度が、大多数が結婚し、生涯連れ添うことを前提に作られているからです。結婚が当たり前ではなくなった時代に制度が追いついていない。男女雇用機会均等法ができて30年以上経つというのに、男女の雇用格差が大きいのも大きな問題です。

 しかし、ロスジェネ世代の女性の苦境は、現在は見えにくい。「家事手伝い」として親と同居している女性が多いからです。親と死別した後に経済的に困窮します。問題なのは、40代、50代になっている女性たちを今から正規雇用化しても、将来の貧困化を防ぐ効果は小さいということです。将来の年金額は過去20~30年の保険料支払いが反映されるためで、貯蓄や投資によって老後の準備をするのも簡単ではない。

 今のままでは、最後のセーフティーネットである生活保護を必要とする女性が激増し、制度として回らなくなるでしょう。就職氷河期に社会に出たタイミングや男女の雇用格差は、決して自己責任ではありません。現状に合っていない社会保障制度を改革する必要があります。(聞き手・真鍋弘樹

先が見えない なんらかの公助を

 フォーラムアンケートに寄せられた回答の一部です。その他の回答も、https://www.asahi.com/opinion/forum/144/で読むことができます。

●非正規教員、残業続けて職場で倒れる 77年生まれの女性です。一度も正規雇用で働いたことがありません。教員免許を持っているので県費の臨時職員として7年間中学校で働きました。初めての賞与も含め、ある程度まとまった額の給与を手にすることができた喜びと、たとえ激務であってもこの仕事から離れたらこれ以上稼げる仕事に就ける見込みはないとの思いで月100時間近くの残業、睡眠時間は4時間半の生活が続きました。結果、病を発症し職場で倒れました。今は車の運転ができなくなってしまい、車社会の地方住まいでは、イコール仕事にありつけません。人手不足と言われる学校現場に戻りたい気持ちはありますが、移動の自由をなくした今、先は何も見えずにいます。(長野県 40代女性)

●男性面接担当者「地元に帰って結婚でもしたら」 様々な事情で困っているのはこの世代に限ったことではないとも思いますが、当事者として言わせてもらうと本当に就職活動は困難なものでした。「女性なんだから就職活動なんかより地元に帰って結婚でもしたら」と男性面接官に言われたことはいまだに忘れられません。この世代は特に人口も多く、男性でも大変だった氷河期の就職活動、女性が正規で就職するには大学卒業後に専門学校に通い、専門資格を手に入れるなどの遠回りが必要な時代でした。それにはお金が必要でした。そのすべすら持たなかった女性たちがいまも非正規となっているのです。まだ遅くはないので、専門家の意見を聞いて、なんらかの公助施策を考えてほしいものです。(千葉県 40代女性)

●20代だが男女格差で将来不安 ロスジェネ世代ではない20代だが、変わらず将来が不安。男女の賃金格差などがあること、介護や家事などが女性に押し付けられやすい社会構造の結果、女性が自立して経済的に備えることの難しさは男性と比べてやはりあると思う。女性優遇だと言われるのが怖いが、事実偏りがあるのでなくしてほしい。あとは純粋に男女関係なく賃金が上がらないと子供を持とうとは思えないなと最近思っている。(東京都 20代女性)

●頑張らないといけない思い込み 国の問題だと思いつつも、正直心のどこかで、自分に関しては自己責任であるとも感じます。だから困っていることは、自分で引き受けて、頑張らないといけないという思い込みがあることは否めません。私の独身の同級生を見ても、真面目であまり人に頼らない人がいるので、時代的にそのようなマインドを持ちやすい世代なのかもしれません。(福岡県 40代女性)

●結婚が永遠に続くと限らない 女性は社会構造的に男に頼らなければ、経済的困窮する仕組みになっていること自体を変える必要がある。結婚したところでそれが永遠に続くとは限らない。私は50歳で離婚を余儀なくされ、現在生活の為に派遣で働いている。それまで自営業だったため、定年後の年金は月6万円にも満たず、生活保護にならざるを得ないと覚悟している。女性が出産や育児でいったん仕事を離れても、復帰した時に男性と同程度に稼げる社会にならなければ、少子化は絶対に止まらないし、女性の貧困も止まらない。(東京都 50代女性)

●自業自得だ 仕事を選んでいるからだ。選ばないでどんな仕事でもするという必死さが見えないからだ。どの時代にも苦労はある。この世代には、はいつくばっても仕事をするという気概がなかったのだ。自業自得だ。(愛知県 80代男性)

●ずっと自己責任だと思ってきた 就職できず、結婚に逃げました。DVを受けて、離婚しました。幸い正社員の職はありますが、介護業界で低賃金で勤め上げても退職金は1円もありません。ずっと自己責任だと思って生きてきました。年金も未納しており老後の資金は無いです。家賃も払えるかわかりません。国から助けが必要です。(愛知県 30代女性)

●自分の努力で変えられる 私はロスジェネ世代ど真ん中です。塾には通わず大学受験し、希望のところに無事合格、学費は返済型の奨学金でまかないました。50社ほど受けて、なんとか1社内定をもらって正社員就職し、8年かけて奨学金も返済できました。今は夫と子供と仲良く楽しく暮らしています。私が言いたいのは、なんでも時代のせいにするのではないということです。自分の努力や考え方次第でいくらでも変えられます。歯を食いしばって、やっと報われた私たちを馬鹿にしないでほしい。(神奈川県 40代女性)

●母の苦労 母がロスジェネ世代。シングルマザーで私を育てていたため他人事とは思えない。ただでさえ厳しかった新卒の就職活動のあと、結婚、出産、離婚を経てより厳しくなる再就職。再婚した母でも厳しかったのだから、単身者の方がどれほど厳しいのかは想像もできない。(東京都 20代女性)

●本人の選択の責任だ どうしてこの世代の尻拭いを他の世代がしなければならないのか。どんな雇用形態であれ、就職しなかった、結婚という方法も選ばなかったのも本人の選択ではないのか。(千葉県 60代男性)

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 1995年に社会に出て、98年に転職した。女性だけが聞かれていた企業のお決まりの質問「結婚したら仕事はどうする」にはしっかり対策していったが、自慢なのか愚痴なのか「成績順に採用すると女性ばかりになる」には戸惑った。「そうなんですね」と驚いてみせるしか、私にはアイデアが浮かばなかった。

 うめき声のような同世代の回答を読み、早急に解決すべき社会課題の真ん中に置いてもらえなかった理由を考えた。男性が稼ぎ主、女性が補助的に働き育児などを担う仕組みが「標準」である限り、女性は低収入の仕事に誘導される。特定の選択をしなければ困窮し、不安しか与えない仕組みはおかしい。どう改善するか。偶然にも今日は投票日。自分だけの判断で行動を起こせる。中塚久美子

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