「絵は人生の救いの神」戦中に弾圧された男性、100歳の記念展

本田大次郎
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 海辺で朽ちる廃船、陽光浴びるヨーロッパの街並み――。今月100歳を迎える北海道旭川市の菱谷良一さんの作品展が2日、旭川市民文化会館で始まった。会場の一角で見る人に強く問いかけるのは「赤い帽子の自画像」。戦中の思想弾圧事件「生活図画事件」で投獄され、保釈後に描かれた作品だ。理不尽な逮捕から80年。「でも、絵は人生の救いの神だった」

 菱谷さんは、1941(昭和16)年、旭川師範学校(現・北海道教育大旭川校)の学生だった時、身に覚えのない治安維持法違反容疑で逮捕された。所属する美術部は生活のありのままの姿を描く「生活図画」に取り組んでおり、それが共産主義思想と強引に結びつけられた。1年3カ月間、投獄され、42年の12月末に保釈。直後に描いたのが「赤い帽子の自画像」だった。

 「不当な逮捕への怒りがあった。帽子は妹のもの。共産主義を意味する『アカ』の色の帽子をかぶり、精いっぱいの皮肉を込めた」

 戦後は日々の生活に追われ、絵筆から遠ざかった。しかし定年後、妻に誘われ、公民館の絵画教室に通うようになると、「焼けぼっくいに火がついた」。自宅にアトリエをつくり、絵に没頭した。最初にひかれたのは、廃船や廃屋。「滅び行くものに、愛着があった」。旅行も好きで、海外へ出かけては、各地の風景も描くようになった。

 絵を通して、人とのつながりも増えていった。「百歳記念作品展」は、そんなつながりのある人たちが実行委員会を作って、開催してくれた。会場にある約80点の多くは、自宅倉庫で長らく眠っていた作品。久々に囲まれ「『おやじ、まだもう少し頑張れ』って、絵に言われているような気がする」と笑う。

 「絵を描いたことがきっかけで投獄されたが、絵を描くことは私の生きがい。人生の救いの神だった」。会場を訪れる知人たちに、とびっきりの笑顔をみせていた。

 「百歳記念作品展」は7日まで。(本田大次郎)