マイナースポーツに市場価値を生み出すモデルに 武井壮さんの挑戦

稲垣康介
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 日本フェンシング協会会長の武井壮さん(48)は、五輪をめざすレベルのアスリートの中にも「お金のためにスポーツをやっているのではない」という風潮があることに一石を投じる。陸上の10種競技で日本チャンピオンの栄誉を手にしても注目は集まらず、「マイナー」の悲哀からタレントへの転身を決意。今やメディアに引っ張りだこの人気者になった経験から導き出した哲学とは――。

 会長就任のきっかけは今年1月、前会長でフェンシング五輪メダリストの太田雄貴さんからの唐突なSNSのダイレクトメッセージだった。最初は固辞していたが、引き受ける決め手は選手たちとのオンラインミーティングだった。

 「6月に就任する前の最初のミーティングで協会の年間予算、スポンサーの協賛金、五輪関連の強化費がこれぐらい、といった情報を太田会長(当時)の了解を取って選手たちと共有させてもらいました」

 そして、問いかけた。

 ――皆さんが企業の社長だったら、今のフェンシング界にお金を出しますか?

 「スポンサーは小遣いをくれる人たちじゃないことをまず伝えたかったんです。支援を受けた選手は広告効果を期待される。ウェアの支給もメディアなどでの露出が念頭にあります。だから、フェンシングを国民的なスポーツに発展させ、皆さんが豊かな選手人生を送るには、協賛金以上の経済価値を還元できるかがカギだと話しました」

 優秀なコーチを外国から招くにも、大会を開催するにもお金はかかる。国際大会に出るにも、今は選手が海外遠征費を自己負担するケースがあるからだ。

 練習して休養を取るだけの毎日ではなく、スポンサーメリットを獲得するための活動も依頼するかもしれない。そんな意識改革の話をしたら、ほぼ全員が賛同してくれて気持ちが固まった。

 フェンシングの現状についての分析は「野球と比べると、参入障壁の高さがよくわかります」。日本で暮らしていれば、プロ野球や夏の甲子園など、野球のニュースは自然とメディアを通じて触れる。各地に野球場やグラウンド、チームもある。ボールを投げたり、バットで打ったりした経験がある人は多い。プロ野球選手や大リーガーになれば億万長者も夢ではない。

 「フェンシング場は足を踏みいれたことのない人がほとんどでしょう。あらゆるスポーツをやってきた僕もなかったわけですから、奇跡的な確率です」。競技人口は約6千人。日本代表も親がやっていた二世選手が多い。剣、ウェア、手袋、マスク、得点判定のシステムやピストが必要で扱う専門店は少ない。

 武井会長が直轄事業として乗り出したのが「フェンシングパーク」構想だ。競技の魅力を知ってもらうため、各都道府県に一つずつ無料でできる場所を地元企業から資金を募って設ける青写真で、すでに福岡では計画が本格化している。「選手たちが営業に行けば、地元の商店街や企業との人脈ができる。現役引退後の指導者として生きていく受け皿にもなる」

 今は「市場」が小さすぎてトップ選手でもセカンドキャリアが描きにくい。大学を卒業したら競技を引退する選手が多い。

 「大学でITの先端技術を勉強すれば、培ったスキルを卒業後、社会に出て生かせる。なのに、フェンシングの場合、幼少から10年、20年打ち込んで身につけた技術も、大学卒業とともに引退して箱にしまうのでは無形の財産が単なる遺物になってしまう。コーチを職業にできれば、指導のノウハウが継承され、競技力の強化につながります」

 さらに、愛好者を増やすために遊びの延長で楽しめる、剣の突き合いのような大会を創設したいという。知り合いのタレント、ユーチューバー、格闘家を巻き込んで盛り上げる戦略を描く。「東京五輪で金メダルを取った男子エペ陣のすごさは一般の方には実感としてわかりづらい。みんながキャッチボールをした経験があるから野球のすごさがなんとなくわかるように、剣で誰かを突いた経験が遊びでもあれば、一流の技巧のすごさがわかるはず」

 逆風は覚悟の上だ。東京五輪という「特需」や五輪メダリストの太田前会長の人脈で、協会のスポンサーも増えた。でも、コロナ禍で五輪は無観客開催になり、経済効果は当初の見込みから大きく外れた。コロナ禍で打撃を受けて業績が悪化している企業も多い。

 「これからは日本のスポーツ界にとって冬の時代が来るかもしれない。常識で考えたら大変な時期に会長を引き受けたので、やるしかない。就任前の想像の10倍以上、協会の仕事に時間を割いています。ガバナンス、コンプライアンス、大会に向けた準備など、タレント業もあるし、プライベートな時間はほぼないです」。6日は全日本選手権個人戦の決勝が、史上初の屋外開催で東京・六本木ヒルズアリーナで催される。

 会長職は無報酬だ。「選手のため、協会のためにボランティアをするという意識は全くないです。フェンシングを通じて僕の人生は豊かになるし、ここで知り合った方々と将来、仕事でまたつながるかもしれない。五輪で金メダルを獲得してくれて、僕の露出も増えていますし、自分が使った時間で意味あるモノを形にしていった先に、新たなオファーがある。この会長職だって意図してめざしていたわけではないので」

 自身の役割は日本フェンシング界の歴史の中で「ちょっとスパイスを振りかける感じ」のイメージだという。マイナースポーツに「市場」を生みだすモデルケースになれば、と信じて。稲垣康介

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 たけい・そう 1973年生まれ、東京出身。野球、陸上、ゴルフなど多様なスポーツの経験を持ち、スポーツ選手トレーナーなどを経て芸能界へ。あらゆる動物の弱点を突いて倒す「百獣の王」のキャラで人気を集め、テレビのレギュラー番組は多数。