党本部裁定 保守層を分断 5区 反発と困惑 野党に流れた支持

2021衆院選

渡辺純子
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 公示を4日後に控えた10月15日夜、福岡5区の筑紫野市文化会館。9選をめざす自民前職・原田義昭(77)の決起大会の最中、アナウンスがあった。「今しがた、今回の公認は原田先生、相手方は立候補をとりやめると連絡がありました!」

 会場はどよめき、拍手が起きた。「よかった」「これで楽勝だね」。保守分裂による共倒れを心配していた支持者は喜んだ。

 「相手方」の栗原渉(56)は1年以上前から出馬を準備し、多くの地元地方議員や団体が支援。5区の党地域支部七つのうち五つが栗原を推薦した。この日午前は事務所にテレビ局が来て、当選の万歳をする場所まで決めていた。

 その午後、上京した栗原が党本部から突き出されたのは「今回は原田、次は栗原を公認」との裁定書。昨冬に同じ内容を打診されたが断った。党公認の原則「現職優先」を承知で無所属も覚悟し、上京前日には県議を辞職していた。だが、今回は除名をちらつかされ、総裁の岸田文雄や副総裁の麻生太郎らを前に署名を迫られた。

 翌日から栗原は支援者への謝罪行脚に追われた。本人以上に支援者は憤った。

 特に激しかったのは栗原の地元、朝倉地域だ。17日夜、東峰村長選の開票で集まった村民は「有権者をバカにしとる」「やり方が汚い」「あげなじいさんが牛耳っとるから自民党はよくならん」と党本部を批判。世代交代を拒んだ原田への不満もぶつけた。

 「今回は堤に入れる」「党本部に抗議するにはそれしかない」。保守が盤石とされる朝倉を中心に、そんな声が上がった。

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 立憲新顔の堤かなめ(61)の陣営にも、その声は届いた。出馬表明が4月と出遅れ、保守分裂の「漁夫の利」も消えたが、「地域の声を無視した自民党のやり方に怒っている人は多い。そこにも訴えていく」。戦略を練り直した。

 公示の19日、出陣式を有権者が多い春日市だけでなく、急きょ朝倉市でも開いた。堤は連日十数カ所で街頭演説をし、「古い政治を変える」と訴えた。「仲間にこんな冷たい仕打ちをする政党に、温かい政治ができるでしょうか」。応援弁士は声を張り上げた。

 「保守王国の岩盤を打ち破れ」。そんなかけ声は徐々に広がった。栗原のポスターに堤のポスターを重ねて貼る人も現れた。

 栗原票が堤に流れる――。危機感を募らせた原田陣営は栗原支援者を取り込もうとした。裁定書には、栗原は原田を「全力で支援する」ともある。栗原側にとっても、原田が負ければ次は立憲現職と戦うことになり、得策ではない。栗原側の地方議員は「歯を食いしばって原田をやる」。出陣式には栗原本人も栗原を支援した議員も出席した。

 だが、動きは鈍かった。原田側が栗原を引っ張り回せば「かわいそう」と反感を買う。栗原側も「今さら『原田をよろしく』なんて言ったら余計に反発される」。話し合おうにも分裂の溝は深く、26日にようやくこぎ着けた初の拡大選対会議でも、栗原側の動きの鈍さを非難する声が出て「俺たちを責める会か」と怒声が飛び交った。原田が栗原と壇上でグータッチをしてみせたのは、投票前夜の演説会が最初で最後だった。

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 原田は堤に1万5千票差をつけられ落選。朝日新聞社が投開票日に実施した出口調査では自民支持層の約3割、自主投票とした公明は支持層の4割が堤に入れた。「民意を大切にしないと落ちるということ」。公明関係者は冷たく言った。

 無効票も多かった。5区全体で約1万2千、前回の1・6倍だ。朝倉市や東峰村では7%超が無効。白票のほか「栗原」と書かれた票が多かったという。

 「党本部裁定が遅すぎた。せめて去年ちゃんとやってくれれば」。原田陣営幹部は唇をかむ。今回のごたごたに嫌気がさし、党員を辞めるという支援者もいる。「嵐は去ったが草木は倒れたまま。混乱だけが残った」

 裁定書どおりなら栗原が党5区支部長となる。「大変厳しい結果が出た。自民党だけでなく地域でまとまり、保守地盤を立て直していく」と栗原は言う。

 一方の堤陣営。共産が新顔の出馬をとりやめて自主応援に徹し、野党一本化が成功した面はあるが、今回は「敵失」の効果も大きかった。幹部は「次は栗原氏と戦わねばならない。常在戦場だ」と気を引き締める。(敬称略)(渡辺純子)

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 前回は県内11選挙区で全勝だった自民が3議席を失った衆院選。激戦区で何があったかを振り返ります。

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