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「生みの両親に会いたい」 産院で取り違えの男性、都に調査求め裁判

村上友里
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 東京都立の産院のミスで出生直後に別の新生児と取り違えられた都内の男性(63)が、都を相手取り、実親と連絡がとれるかなどの調整や調査を求める訴訟を5日、東京地裁に起こした。都は取り違えを認めた判決確定後も、プライバシーを理由に実親を特定するための調査を拒んでいるといい、男性は「出自を知る権利」の侵害にあたると主張している。

 原告の江蔵智(えぐらさとし)さんは1958年4月、都立墨田産院(廃止)で生まれた。母親が偶然行った血液検査で、血縁関係ではあり得ない血液型の組み合わせだとわかり、DNA鑑定で「親子関係にない」との結果が出た。「頭が真っ白になった」。46歳のときだった。

裁判で都に勝訴「産院の重大な過失」

 福岡市で暮らしていた2004年に、「生みの親捜しのきっかけにしたい」と裁判を提起。05年の東京地裁判決、06年の東京高裁判決は、いずれも産院での出生時に取り違えがあったことを認め、高裁判決は「産院の重大な過失で人生を狂わされた」として計2千万円の支払いを都に命じた。

 ただ、地裁判決後に親捜しの協力を明言した石原慎太郎都知事(当時)は高裁判決後、「賠償金の支払い以外にできることはない」と一転。都職員らも、実親に関する情報提供は「相手の平穏な生活を乱すかもしれない」として拒む対応を続けている。

自力の親捜し、約100人を尋ねた

 江蔵さんは自力で実親を捜してきた。産院があった墨田区住民基本台帳をもとに自分と誕生日が近い人を調べ、取り違えの心当たりがないかを約70人に尋ね回った。名簿業者から数万人分の名簿を購入し、東京在住で誕生日が近い30人にも問い合わせた。でも、可能性がある人は見つからなかった。

 墨田区が受理した出生届の情報が載っている受付帳の開示も区に求めたが、個人情報保護を理由にほぼ黒塗りで出てきた。それでもなにか変化があるかもしれないと思い、毎年同じ書類の情報開示を求めている。

実名、姿を見せて会見「気づいてほしい」

 江蔵さんが今回の訴訟で都に求めているのは、実親に取り違えの事実を伝えた上で、江蔵さんと連絡先を交換する気持ちがあるかどうかを確認してもらうことだ。「実の親が会いたくないなら、それ以上は望まない。でも、自分が何者かを知るためにも会いたいんです」と思いを募らせる。

 これまでは匿名で記者会見に応じてきたが、海渡雄一弁護士と同席して臨んだこの日は実名や自らの姿を報道してもらうことにした。「私の顔をみた実の親やきょうだいが、もしかしたら気づいてくれるかもしれない」。育ての父親は5年前に亡くなり、母親(89)も介護が必要だ。「実の親も老いているはず。残された時間は多くない」と訴えた。

 都は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。(村上友里)

江蔵智さんをめぐる経緯

1958年4月 東京都立墨田産院で生まれる

2004年5月 DNA鑑定で「親子関係がない」

 04年10月 東京地裁に提訴

 05年以降 住民基本台帳などをもとに誕生日の近い人を尋ね歩く

 05年5月 東京地裁判決が取り違えを認定。石原慎太郎都知事(当時)が親捜しに協力すると発言。

 06年10月 東京高裁判決が産院に重大な過失があったと認定。都は上告を断念。石原都知事が態度を一転させ「賠償金以外に都にできることはない」。