「三振、エラーOK」 野球部に入れなかった僕の人生を変えたチーム

吉村駿
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 「空振りOK、もう一回」「エラーOKよ」。京都府城陽市を拠点に活動する障害者野球チーム「京都フルスイングス」の練習中にはそんな声が飛び交う。久保内弘監督(64)の「障害で制限されることもあるが、野球の時くらい思いっきり楽しんでほしい」という指導スタイルに出会い、人生が変わったという選手もいる。

 10月上旬の日曜日。鴻ノ巣山運動公園野球場(京都府城陽市)でノックの練習が始まった。仲間から「おしょう」と呼ばれる遊撃手の岩岸尚汰さん(22)が、打球を丁寧に捕球し、一塁へ素早く送球。一塁手が捕れなくても「今のは送球が悪かった。すまん」と手を上げ、仲間を気遣う。

 岩岸さんは、小学校6年生の頃、父と初めてプロ野球オリックスの試合を観戦した。ヒット1本で球場が盛り上がる様子に、「野球をやってみたい」。父と庭でキャッチボールを始め、中学校は野球部に入ると決めた。

 だが、発達障害を理由に、中学校でいじめにあった。ほとんど学校には通えず、野球部に入ることはできなかった。高校は特別支援学校に通ったが、卒業後は再び家に引きこもった。

 そんな日々が続いていた3年前。岩岸さんが野球好きだと知った知人から、チームを紹介された。

 練習を見学した日のことだ。グラブを持参していたが、野球経験は無く、チームに知り合いもいない。「初めての野球で緊張していたし、見学だけできればいいと思っていた」

 そんな岩岸さんに久保内監督が声をかけた。「うまい下手よりも野球を楽しんでほしい。うちは『ナイス三振』『エラーOK』。野球が好きなだけでいい」

 笑顔で練習する選手たちの姿を見るうち、自然とノックに参加していた。初めてプレーする野球は、テレビで見るより何倍も楽しかった。

 野球は私生活も変えた。毎週日曜の練習を楽しみに、「またみんなと野球をするために、仕事も頑張ろう」。そう思うようになった。家にこもらず、少しずつ外にも出られるように。今は、近所の事業所で清掃職員として働く。

 仕事が終わると、毎日素振りを欠かさない。部屋の一室を片付け、専用部屋にした。打撃力はどんどん向上し、久保内監督も「初心者だったのに、今では高校野球でも十分通用するレベル」と話す。

 母の千賀子さん(51)は「3年前にチームに入った時、久しぶりに外で息子の笑顔を見た気がしました。本当にこのチームと、久保内監督、障害者野球に人生を変えてもらった」。

 チームの結成は、久保内監督の「息子に大好きな野球を諦めさせたくない」との思いからだった。

 長男の祥太さん(28)は生後間もなく続いた高熱の影響で、右手と右足に障害が残った。甲子園に観戦に行くほど、野球が大好きだったが、中学校では障害を理由に野球部に入部できなかったという。育英高校(兵庫)野球部出身の久保内監督が中心になり、府内の別のチームのコーチを経て、新たに今のチームを2016年に立ち上げた。

 障害者野球は軟式野球のボールを使う。車椅子の選手など、一塁に向かって走ることが難しい場合は「打者代走」が認められ、盗塁やバントが禁止、という特別なルールもある。年齢に関係なく障害者手帳があれば誰でも入部でき、20代から40代まで、15人の選手が参加する。

 チームは、新たな仲間も募集している。久保内監督は「野球は見るのも楽しいが、やってみるともっと楽しいスポーツ。野球好きなら誰でもいつでも大歓迎」と話す。問い合わせは、事務局(075・392・5819)まで。(吉村駿)