大きさ2倍の歯の模型、視覚障害者へ届けたい 「いい歯の日」にCF
歯を守るためには正しい歯磨きを学ぶことが必要だ。でも、自分の歯を見ることができなかったら? 大阪大学は視覚障害者の歯磨き指導に役立ててほしいと、通常の2倍の大きさの歯の模型を作った。全国の視覚支援学校や大学付属病院などに寄贈するため、11月8日(いい歯の日)にクラウドファンディング(CF)を始めた。
きっかけは2014年、阪大歯学部付属病院(大阪府吹田市)を全盲の女性(当時20)が訪れたこと。女性は歯科医師の説明を受けても、どの歯が虫歯なのか、なかなか理解できない。一般的な模型を触らせてみたが、小さすぎて歯や歯茎の境目がわかりにくいという。
「視覚障害者は自分の口の中の構造をわかっていないことが多い」。同病院の村上旬平歯科医師(47)はそう話す。目が見える患者は、鏡を見ながら「前から○○番目の歯並びが悪いので丁寧に磨いて」などと言われれば理解できる。だが視覚障害者はそれが難しいという。そのため適切な歯磨きができず、虫歯や歯周病になってしまうことも少なくない。
「見えなければ、手を使って口の構造を知ってもらおう」。阪大は付属歯科技工士学校の小八木圭以子さん(43)を中心に、視覚障害者の意見を聞きながら模型の改良に取り組んだ。
縦・横・高さが通常の2倍の歯の模型を、大人用、子ども用、生えかけの3セット用意。歯は歯茎部分に固定せず、磁石でくっつくようにした。歯を動かして患者の歯並びを再現し、「この歯は前に出ているから、歯ブラシを縦にして磨かないといけない」などと伝えるためだ。
16年にできた模型は日本障害者歯科学会でも評判を呼び、17年度のグッドデザイン賞を受賞した。府内の一部の視覚支援学校では、実際に歯磨き指導に活用されている。「小さな子どもでも、触って楽しみながら歯磨きを学んでくれる」と好評だ。
記者もアイマスクをつけ、模型を使って歯磨き指導をしてもらった。一つ一つの歯が大きく取り外しもできるので、歯科医師がどの歯について話しているかがわかりやすい。歯並びの悪い箇所や親知らずも再現されていたので、手探りでも口の中をイメージすることができた。
この模型の課題は、価格だ。通常の模型は3万円以下だが、阪大の模型は10万円ほど。一般向けではないので需要も限られており、量産してくれる企業は見当たらない。その結果、全国には行き渡らなかった。
そこで阪大はCFの活用を決めた。目標は1200万円。達成できれば、全国の視覚支援学校に加え、視覚障害者の支援団体、各地の大学付属病院を合わせた計約120カ所に模型を寄贈する。
CFを進める阪大の十河(そごう)基文教授によると、大人が歯を失う主な原因は歯周病で、予防には歯磨きが有効だ。「学校や病院など、視覚障害者があらゆる機会に正しい歯磨きを学べる環境作りが必要だ。すべての人の『健口(けんこう)』のため、協力してほしい」と話している。
詳細はCFサイト「READYFOR」内の専用サイト(https://readyfor.jp/projects/handai-hamokei)。(狩野浩平)
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