揚げたてプリッ 手間暇かけて上品な味わい 愛媛・宇和島のじゃこ天

藤家秀一
【動画】地元の宇和海でとれる魚だけを使ってつくったはるちゃん天ぷらのじゃこ天=藤家秀一撮影
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 愛媛県の南予地方でよく見かけるご当地食材の一つが、小魚を丸ごとすり身にして揚げた「じゃこ天」だ。地元スーパーの店頭には選びきれないほど多くの種類が並び、値段も味も一つ一つ違う。地元の人が「てんぷら」と呼ぶじゃこ天の逸品を求めて、宇和島市吉田町を訪ねた。

 宇和島湾の入り江の奥に位置する宇和島市吉田町奥浦地区。「はるちゃん天ぷら」は、漁船が並ぶ小さな港のすぐそばにあった。「はるちゃん」こと山本ハルミさん(76)が切り盛りする小さな工場は、2018年7月の西日本豪雨浸水被害を乗り越えてきた。

 自慢のじゃこ天は保存料や添加物は一切使わず、原料のすり身は選び抜いた素材だけでつくる。主役はその日に宇和海で捕れたばかりの小魚「ホタルジャコ」。高級魚として知られるノドグロの仲間だけに、じゃこ天に最適の材料とされ、地元では「ハランボ」と呼ばれる。食感をよくするためにすり身に混ぜる「つなぎ」も、デンプンではなく地元産のイカを使っている。

 はるちゃん天ぷらは、すり身まで仕上げるだけでも半日がかりだ。トロ箱で仕入れたホタルジャコを大量の氷で冷やしながら、4~5人が手だけでジャコの頭と内臓を一匹一匹取っていく。山本さんによれば、「内臓が少しでも残ると味に雑味が出る」ため、気の抜けない作業だ。

 早朝から約3時間かけて頭と内臓を取ったジャコは、氷と一緒にざるに入れて機械で左右に揺すってうろこを落とす。さらに氷水で手洗いし、仕上げに水分を絞って、やっと下処理が終わった。

 すり身づくりに取りかかった時には、すでに昼前。大きな挽肉(ひきにく)機でジャコとつなぎのイカをミンチにする。ジャコのねずみ色のミンチと真っ白いイカのミンチが巨大な攪拌(かくはん)機で練り合わされ、ようやくすり身が完成した。ただし、この日の下ごしらえはここまで。「すり身に粘りが出るまで冷蔵庫で一晩寝かせる」という。

 まだ見ぬじゃこ天の味を想像しながら、夜明け前の午前3時半に再訪すると、山本さんの作業はすでに始まっていた。「きのうと全然粘りが違うやろ」と手に取って見せてくれたすり身は、木型にはめると瞬時にじゃこ天の形になった。

 待ち焦がれた瞬間がやってきた。油の中に投入したすり身が、みるみる膨らんでいく。山本さんが箸で裏返すたびに、じゃこ天がどんどんよい色になっていく。揚げたてを食べる気十分だったので、この7~8分がやけに長く感じた。

 じゃこ天が少し冷めるのを待ち、思い切りかぶりついた。今まで食べたじゃこ天にはないプリッとした食感と、すり身の上品な甘みが口いっぱいに広がった。

 「イカを入れとるけんね、冷めても硬くならんのよ」と山本さん。ここまで2日間の工程を振り返りながら、滋味深い味に感謝した。(藤家秀一)

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 〈はるちゃん天ぷら〉 愛媛県宇和島市吉田町奥浦296の1。電話0895・54・0263。営業時間は毎週木~日曜の午前9時~午後4時。じゃこ天は電話での注文販売のほか、市内の直売所「吉田きなはいや三万石」でも買うことができる。月、火曜定休(ホタルジャコの禁漁期間の5月と8月14~31日は長期休業)。