野口聡一さん、まぶしい地球と宇宙の漆黒 「生と死の境界点」に立つ

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聞き手・中島鉄郎
写真・図版
観測用ユニット「キューポラ」内で撮影された野口聡一宇宙飛行士((C)JAXA/NASA)
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 宇宙が身近になった。毎日のように関連のニュースが報じられている。ただその割に、宇宙ってどんなところなのか、地球にいてはまだまだ実感しにくい。今年5月、野口聡一飛行士が3回目の飛行から帰還した。「感覚で宇宙をつかむ」ことを重視する野口さんに、宇宙で何を感じたのか、聞いてみた。

     ◇

地球は圧倒的にまぶしかった

 ――野口さんは理系のエンジニア出身ですが、宇宙についての発言は「文系」的に思えます。

 「そうかもしれません。宇宙開発はどうしても科学者・技術者など理系人間が中心の活動になってしまうので、『宇宙とは何かを探求する』といった人文学的な目的を正面切って取り上げることは少ないでしょう。でも、私は飛行士という職業を選んだ最初の日から『宇宙は人間をどう変えるのか』といった問題にずっと関心があります。日本の7人の現役の宇宙飛行士で、こうした哲学的な問題に、ライフワークとして向き合おうと考えているのは私一人かなと思います」

 ――なぜそうなのでしょう。

 「宇宙に興味を持った大きなきっかけは、飛行士の帰還後を描いた立花隆さんのノンフィクション『宇宙からの帰還』でした。宇宙とは何かを、重力や温度、放射線量など数値で表すことはできる。でも人の内面をどう変えるかは数値化できません。それを言語で描いていた作品で感銘を受けました。立花先生とは飛行後、何度も対談させていただく機会がありました。飛行士の宇宙体験について、例えば『その青とはどんな青?』と言葉に置き換えさせようと、何度も問い詰めてくるのが印象的でした」

 ――「青」と言えば、ガガーリンの「地球は青かった」が名言として有名です。やはり地球は「青い」という印象ですか。

 「意外なことにガガーリンの言葉は、本国ロシアでは全く知られていません。帰還後の会見で聞かれて『青かった』と答えたのが日本で広まっただけのようです。私の印象はどうかというと、確かに青かったですが、それ以上に印象的だったのは『まぶしさ』でした。太陽の光を反射する地球の圧倒的なまぶしさに驚いたのです。そして光まばゆい地球と、真っ黒な世界である宇宙のコントラストに衝撃を受けました。4K、8Kのどんな精細な映像でも伝えられないでしょう」

宇宙への3度の飛行の中で、野口さんにとって4回目の船外活動となった今回は、過去3回の船外活動とは違う形で「三途の川を渡るような感覚」を痛烈に感じたと言います。記事後半では、無重力状態では「上下関係」など重力に基づく言葉が実態とかけ離れること、自身がモルモットであることからの脱却を果たしたことについても語ります。

「完全なる死の世界」

 ――宇宙の、その「黒」はどんな黒さなのでしょうか。

 「漆黒でしょうか。地上で見…

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