映画「東京オリンピック2017」の描く立ち退きの記録 歓声の裏で

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土井恵里奈
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 「東京オリンピック2017」。このタイトルがすべての映画だ。2020でもなく、2021でもなく、なぜ4年前なのか――。もう一つの、五輪の物語。

 80分の映像に、わずかなテロップがあるだけでナレーションはない。カメラはひたすら、古びたアパートの部屋を映す。

 住人の多くが高齢者。にもかかわらず、肉体を酷使している。ある老人はベランダの室外機を動かそうとする。別の老人は部屋中の物を床に引っ張り出す。

 3~5階建ての都営霞ケ丘アパートには、エレベーターがない。1964年の東京五輪開発の一環で建てた10棟約300戸の都営住宅で、東京の明治神宮外苑にある国立競技場新宿区)のすぐ近く、競技場の歓声が敷地内まで響く距離にあった。一帯はかつて五輪のための立ち退きがあり、家を奪われた人々の受け皿となったのが、このアパートだった。

繰り返される排除

 排除は繰り返される。都は2012年、半世紀以上この土地に根を下ろしてきたアパートの住人に退去を求めた。2度目の東京五輪のためだった。これは、単なる引っ越しではなく、五輪の歓声の裏で排除される人々の日々を追ったドキュメンタリー。青山真也監督は、その影に光をあてた。

 「大変」。電話でため息をつく高齢女性の部屋は、物であふれかえっている。洋服、ティッシュ、ごみ袋。泥棒に踏み荒らされたかのような散らかりぶり。映像では語られていないが、女性の夫は入院していた。1人で夫の分まで荷物整理に追われる毎日。部屋中の物が定位置を失い散乱する様は、人が居場所を失う壮絶さを物語る。

 カメラは生活のにおいを濃厚に写し取る。たとえば青果店の映像。アパートの中にあり、最盛期はたばこ屋、菓子屋、時計屋などとともに住民の生活を支えていた。

 高齢の住人のために、部屋まで店の人が食材を届ける場面は、アパートが単なる住宅ではないことを示している。すぐ近くには原宿や青山といった繁華街がありながら、時代からも周辺の街からも取り残されたエアポケットのような空間には、青山監督のいう「時空のゆがみ」が確かに表現されている。

 都は、立ち退きの期限を16年までとしたが、全員が去ることはなかった。自力で引っ越せない人もいたからだ。

一部住民残したまま解体

 そして16年、アパートに激震が走る。

家なき問題は今 住まいの貧困の専門家に聞く 映画「東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート」

住まいと貧困の問題に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんによると、住まいを失う問題は特殊なケースではないといいます。コロナ禍のいま、むしろ現在進行形で加速している、と。五輪が終わっても続く問題を考えます。

 一部の住人を棟に取り残した…

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