恐竜、昆虫、カニ…ミャンマー産琥珀から新種続々 軍事衝突で物議も

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小堀龍之
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 ミャンマー産の琥珀(こはく)に最近、古生物学者から熱い視線が向けられている。約1億年前の恐竜や昆虫、カニといった生き物が閉じこめられた琥珀が次々に見つかっているからだ。一方で、ミャンマーで起きている軍事衝突が、琥珀の研究をボイコットするべきだという議論を呼んでいる。

 米エール大学のハビエル・ルケ博士らは10月、現在のカニと同じ姿をした1億年前のカニの化石を発見したと論文で発表した(https://science.org/doi/10.1126/sciadv.abj5689別ウインドウで開きます)。

 カニが見つかったのは、大きさ約3センチのミャンマー産琥珀の中だ。琥珀は、粘りけのある樹液が長年の間に化石化した宝石で、中に樹液にとらわれた生き物を閉じこめていることがある。

 「化石を初めて見たとき、畏敬(いけい)の念を抱きました」

 ルケさんを驚かせたのは、保存状態の良さだった。カニの化石は甲羅やはさみなど一部しか残らないことも多いが、顕微鏡やCTスキャンで琥珀の中を調べたところ、甲羅の幅が約2ミリと小さなカニの体には、複眼やえらなど細かな組織が1億年たってもきれいに残っていた。

 カニは魚のようにえら呼吸するが、体内にためた水分を使えば陸に上がることもできる。白亜紀にも現在のカニと同じように陸上の木に登る種がいて、樹液にからめとられ、やがて琥珀化したとみられる。

 海にいたカニが陸や淡水域に現れたのは7500万~5千万年前と、ずっと後になってからと考えられていた。ルケさんらは今回の化石が、カニが海以外の環境に進出したことを示す最古の証拠だと考えている。

 「白亜紀のカニの初期進化を理解する上で、このカニが本当に特別な存在であり、重要であることは明らかでした」

ジュラシック・パークに出てくるような琥珀

 こうした生き物入りの琥珀は、映画化されたマイクル・クライトンのSF「ジュラシック・パーク」のヒントになった。恐竜の血を吸った蚊が、ねばつく樹液に閉じこめられて琥珀化し、長い年月を経て発掘される。そこからDNAを取り出し、現代に恐竜をよみがえらせるという筋書きだ。

 ただ、研究者によれば白亜紀の琥珀から恐竜のDNAを取り出すことは想像上の話でしかない。DNAは生物の死後、微生物や細胞の酵素、紫外線、酸素、水などの影響で分解される。もし、わずかな断片が残っていたとしても、恐竜時代の化石からクローンを作るのは、今の技術では不可能だ。

 とはいえ、地層の中で押しつぶされ、骨や殻といった硬い組織だけが残ったふつうの化石に比べ、琥珀の中の化石は情報の宝庫だ。毛や皮膚などの軟らかい組織まで立体的に残ることがあり、古代生物の当時の姿を詳しく知ることができる。

 ミャンマーの琥珀からは、白亜紀に栄えていた恐竜も見つかっている。中国地質大学の邢立達(シンリーター)准教授らは2016年、羽毛恐竜の尻尾が入った琥珀の発見を報告した。スズメほどの大きさのコエルロサウルス類の仲間の化石の一部とみられる。

 羽毛恐竜は1990年代に中国で見つかり、近年は毛がふさふさの恐竜の復元図も描かれるようになったが、羽毛が実際にどのように生えていたかわかる立体的な化石が見つかったのは、世界で初めてだった(https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(16)31193-9別ウインドウで開きます)。

 邢さんはほかにも、ミャンマー産琥珀から、これまで原始的な鳥やヘビ、カエルなど様々な生き物を見つけて論文発表してきた。ルケさんたちのカニの研究にもかかわっている。

 生き物入り琥珀の産地は、欧州のバルト海沿岸や中米のドミニカ共和国なども知られるが、多くは新生代(約6600万年前から現在まで)にできた琥珀だ。

 ミャンマー産の琥珀は、恐竜がいた白亜紀の中頃(約1億~約9900万年前)の地層から出たものだ。時代が古い上、量も多く、標本商などから比較的手に入れやすいことから近年、研究が進んでいる。米科学誌サイエンスによれば、ミャンマー産琥珀から2018年までに新種の生物が1千種以上見つかっている。

 日本の研究チームからの発見も報告されている。箕面公園昆虫館(大阪府)の中峰空(ひろし)館長らは20年、ミャンマー産の琥珀から「トゲズネトガマムシ亜科」の昆虫4新属、7新種を見つけたと発表した(https://doi.org/10.1017/S0016756820000205別ウインドウで開きます)。白亜紀の化石しか見つかっていない昆虫で、それまでに14種が知られていたが、一気に数を増やした。

 中峰さんはミャンマー産の琥珀から見つかる昆虫について「トゲズネトガマムシのように絶滅した原始的な昆虫が見つかる一方で、現生種と形がほとんど変わらない昆虫も見つかるのが非常に興味深い」と話す。

 北海道大学の大学院生、谷口諒さんらのチームは今年9月、ミャンマー産の琥珀に入っていた、大きさ約9ミリのゴキブリの生態について発表した(https://doi.org/10.1007/s00114-021-01755-9別ウインドウで開きます)。

 琥珀を削り、きれいに残っていた複眼や触角の特徴を詳しく調べたところ、現代のゴキブリとは違い、明るいところで行動していたとみられることがわかった。

 ただ、中峰さんや谷口さんらは、「倫理的な問題」から、ミャンマー産琥珀に基づく論文の投稿先をどう選べばよいか、困ったことがある。科学誌の一部に、琥珀についての論文の掲載をボイコットする動きがあるためだ。

琥珀の研究をボイコットする動き

 たとえば大英自然史博物館による古生物学の専門誌「ジャーナル・オブ・システマティック・パレオントロジー」は20年、ミャンマー産琥珀を使った原稿を掲載しない方針を明らかにした。

 背景にあるのが、ミャンマーで起きている軍事衝突だ。ミャンマーは1948年の独立以降、国軍と少数民族の武装勢力による衝突が続き、「世界最長の内戦」状態にあるとも呼ばれる。今年2月には国軍がクーデターを起こして権力を奪い、市民を弾圧して犠牲者が出ており、混乱が続いている。

 琥珀の主な産地は、北部カチ…

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