「役場は役に立たない」とは言わせない 港町を救った型破り公務員

岡田和彦
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 【静岡】役場に出勤するのは週に1日だけ。ほかの日は市場に持ち込まれる魚の値段を決め、買い取った魚を見事な包丁さばきでさばき続ける。そんな型破りの公務員がいる。西伊豆町産業建設課農林水産係主査の肩書を持つ松浦城太郎さん(41)の職場は自らが中心になって仁科漁港に開設した「はんばた市場」。西伊豆の味を求める人たちに人気の地場産品直売所だ。

 「はんばた」は西伊豆の方言で「浜端」。漁港の波止場に2020年5月、オープンした。松浦さんがこだわる地産地消を実現するための拠点だ。目の前の海で取れた魚介類、本わさびや野菜・果物、干物やしおかつおなどの加工食品、それらを材料に調理した弁当・そうざい・パン。全て生産者から直接仕入れた地場産品だ。

 ユニークなのは釣り客の釣果を買い上げて販売する「ツッテ西伊豆」と名付けたシステム。釣り客は町提携の釣り船で釣りを楽しみ、船長から釣った魚のしめ方、氷での冷やし方を教わり、船長の証明書の付いた魚をはんばた市場に持ち込む。目利きの松浦さんが買値を決め、地域電子通貨の「サンセットコイン」(1円=1ユーヒ)の支払いを受ける。サンセットコインは町内の飲食店、宿、土産物店、温泉、釣り船、ガソリンスタンドなど約130店舗で使える。

 「釣り人の手も借りたいというのが本音なんです」と松浦さん。町の高齢化率は51・36%(9月1日現在)で県内トップ。1950年にピークの1万8654人だった人口は7357人(同)まで減った。漁師の高齢化が進み、水揚げも減少に歯止めがかからない。「釣りの地魚」が手に入る上に釣りと観光を結びつけ、釣り人が観光客として金を落とす仕組みにもなっている。

 西伊豆で生まれ育った松浦さんは子どものころから魚釣りに没頭した。勉強には熱が入らなくてもどうやれば釣れるかという研究には打ち込めた。「そんなに釣りが好きならば」と高校の教師にすすめられて東海大学海洋学部(静岡市)に進学。卒業後、故郷の町職員になった。2013年度には県に出向して水産行政の経験も積んだ。

 転機になったのは2014年度に導入したふるさと納税制度。約100人いる町職員の2割が参加するプロジェクトを組織した。返礼品の地物の干物が人気を呼び、3億7千万円の寄付を集めて県内1位に輝いた。役場内は元より、「役場は役に立たない」と言っていた町民の見方が変わった。松浦さんらが仲立ちとなり、生産者と消費者を結ぶ動きが本格化した。

 ワサビ農家の堤圭祐さん(35)は東京の大手システムメーカーのシステムエンジニアだったが、2015年に妻の実家に入り就農した。出荷したワサビは、はんばた市場で販売すると共に地魚とセットで東京のすし店や料理店に届けられる。「自分が作ったワサビが認められ自信になった。松浦さんにはお役所や役人仕事といったイメージを変えられた。仲間として頼りにしている」と言う。

 町は20年5月、松浦さんが提案していた地域電子通貨を採用し、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済対策としてサンセットコイン1万円分(1万ユーヒ)をチャージしたカードを全町民に配布した。マイナンバーポイントもサンセットコインで受け取れるようにした。スマートフォンを持たない高齢者もキャッシュレス決済ができるようになった。

 松浦さんは「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2021」に選ばれた。「もっとやれることがあると思う。役場は役に立つと言ってもらえるようにしたい」と次の事業を模索中だ。

 星野浄晋町長は話す。「受賞はめでたい。支える上司、同僚、後輩がいたからこそ彼がのびのび仕事ができたのだと思う。出る杭は打たれるが、出過ぎれば打たれようがない。とことんやりたいようにやらせて、後はこちらで責任を取る腹をくくればいい」。(岡田和彦)