アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンは、バイデン米大統領が米軍撤退を表明した直後の今年5月ごろから、攻勢を強めた。その際、各地の刑務所から仲間を脱獄させた。そのなかに、私が会った自爆未遂犯の男もいたのだろうか。生きていれば、今年で36歳。アフガニスタン関連のニュースを見聞きするたびに、男の深く澄んだ目を思い出す。
2008年4月、私は首都カブールで治安機関が管理する建物を訪れた。ソファだけが置かれた殺風景な面会室に座っていると、ドアが開いて男が入ってきた。左胸の部分に穴が開いた灰色のスウェットを着て、茶色い手編みの帽子をかぶっている。隣国パキスタンで生まれた男は、「サラフディン」と名乗った。当時23歳。3カ月前にカブールの高級ホテルを襲撃し、現行犯逮捕された。
そのころタリバンは、人里離れた山岳地帯で自爆犯を訓練し、駐留米軍の車両などに突っ込ませていた。自爆犯はなぜ、自らの命を捨ててまで敵に立ち向かおうとするのか。その心情を少しでも知ろうと、アフガニスタンを担当していた私は、治安当局に自爆未遂犯とのインタビューを申し込んでいた。認められたのが、長いあごひげを伸ばしたこの男だった。
外国人を殺害「良いことだった」
自爆できなかったわけを問うと、男はよどみなく言った。
「殉教(自爆)しようとした…