教育界で「黄金の椅子」と呼ばれた古びた丸い椅子がある。「授業の神様」と言われた国語教師の大村はま(1906~2005)が中学校の教室で、子どものそばに座って一対一で話すときに使った。それを製造した会社が、椅子を復刻して教師や教育委員会に贈る計画を進めている。いま、椅子に託されるものとは。(編集委員・氏岡真弓)
大村は戦前から戦後にかけて52年間、73歳まで教壇に立ち続けた「伝説の国語教師」だ。新聞記事や雑誌、本を活用した手作りの教材で独創的な授業を展開し、学習指導要領や教科書の作成にも携わった。
一人ひとりに教材を選び懇切に指導する授業は「大村国語教室」とも呼ばれ、年1回の研究発表には全国から教師が集まった。
大村が使っていた丸椅子は、座面の直径30センチ、高さ48センチ。ナラ材でつくられている。退職した直後の1980年4月、この椅子について自身が語った映像が放映された。NHKの番組「わたしの自叙伝」だ。
椅子に込めた思い
〈この椅子、いろいろの子どものそばに寄せて、そのときどき、その一人と、ことばを学び、語り合ってきた椅子です〉
ある授業で、一人の子どもに…
【無料会員限定】スタンダードコース(月額1,980円)が3カ月間月額100円!詳しくはこちら