カブトガニもぞもぞ、90年ぶりの快挙も 瀬戸内海本来の姿残す干潟

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杉浦奈実
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 コンクリート護岸や埋め立てがされていない「瀬戸内海の本来の姿」を残す干潟が、広島県竹原市にある。カブトガニや貝類などが豊富で国の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」に選ばれている「ハチの干潟」だ。現場を訪ね、干潟の恵みを考えた。

 ハチの干潟は瀬戸内海に注ぐ賀茂川河口に広がる。干潮時には約22ヘクタールになる。11月初め、保全活動に取り組む「ハチの干潟調査隊」の岡田和樹代表(35)の案内で干潟を歩いた。

 チゴガニ、ハクセンシオマネキ、オサガニ……。数十メートル進むごとに長靴の下の泥は固さを変え、そのたび違う種類のカニが現れる。

 水がたまったところでは若いカブトガニがもぞもぞとしていた。「汽水域、泥干潟、砂干潟、藻場などが密に残っている。それで生物の多様性もすごいんです」

 訪れるには、干潮時に賀茂川の川床を伝って下りるのが一般的だ。集落と干潟の間に山があり、賀茂川がその山を貫いて走っているためだ。山越えのルートもなくはないが、とても厳しい。この日は大潮ではなかったこともあり、わずか30分足らずで潮が上がってきてその場を辞した。

 かつて瀬戸内海各地にあった干潟は戦後、工業用地として埋め立てられたり、コンクリートの護岸ができたりして、自然な状態で残っているところは多くない。その中にあって、ハチの干潟はアクセスの悪さも手伝い、ほぼ開発の手が及ばず残ってきた。

 今、近くの海からちぎれて流れてきたアマモという海草を肥料に使う伝統農業に取り組む岡田さんは「うちらの世代って、本来の自然をほぼ見ることができない。ここは辛うじて残った最後の場所で、次の世代に残していかなければいけない」と話す。

 この場所では2020年、ゴカイの仲間で、長さ3メートルほどになる「サナダユムシ」が採取された。ソーセージのような本体は砂泥の奥深くに埋まったまま、干潟の表面に細長いリボンのような口吻(こうふん)だけを出して有機物を集めて食べるユニークな生き物だ。口吻はちぎれやすいため、本体の採取は約90年ぶりの快挙で、論文にもなった(https://doi.org/10.3800/pbr.16.155別ウインドウで開きます)。

 サナダユムシは全国的な干潟の減少や環境悪化により、生息数の減少が心配されている。本体を詳しく調べて論文を執筆した京都大学の後藤龍太郎助教は「本体が採れなければ、繁殖様式の研究などは夢物語だった。今後、繁殖のしかたが明らかになれば保全にもつながる」と話した。

 サナダユムシだけでなく、貝やゴカイの仲間など、干潟の砂の中に潜ってくらす生き物は陸から流れてくる有機物を食べ、水をきれいにするはたらきを持っている。

 ところが、この干潟の隣接地にLNG(液化天然ガス)火力発電所計画が持ち上がった。発電所のほか、賀茂川の流れの先に位置する海の上に、LNGを運ぶ船や、LNGを貯蔵する施設とつながる固定式桟橋もつくる計画だ。研究者からは、生き物への影響を懸念する声が出ている。

 環境省によると、内湾に位置…

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