イベント帰りの「密」、ITで解決できるか ノエスタで実証実験
【兵庫】スポーツや音楽ライブなどの帰りに混雑に巻き込まれると、楽しかった気持ちがちょっとなえる。特に「密」を避けたいコロナ下ではなおさらだ。情報技術(IT)で解決できないか。始まった実験には、もう一つの狙いが込められていた。
ノエビアスタジアム神戸(ノエスタ、神戸市兵庫区)であったサッカーJリーグ1部ヴィッセル神戸の試合。終了が告げられると、観客が次々と席を立ち、家路についた。新型コロナ流行前ほどではないが、出口付近は人が滞留する。
混雑の様子をライブ映像で見る。地下鉄やバスなど公共交通機関の待ち時間や、混まないタクシーの配車場所が分かる――。これ、スマートフォン(スマホ)のアプリでできる。
アプリの名前は「困ってMaaS(マース)」。神戸大学、デンソーテン(神戸市兵庫区)、そして楽天モバイルの3者が10月からノエスタで実証実験を始めた。ITを使って、観客の帰るタイミングを分散させることが目的だ。
「画面をどう見せたら、どう動いてくれるのか。行動経済学や心理学も参考にしている」と、アプリの設計を担当した神戸大工学研究科の寺田努教授(電気・電子工学)。
とはいえ情報を提供するだけでは、観客は思うようには動いてくれない。そこでアプリには、「帰るのをちょっと待とうかな」と思わせる報酬がある。試合後にスタジアム内などで10分待てば100ポイント、30分待てば400ポイントというように、待つほどポイントが加算される。待つ間に楽しめるヴィッセルのクイズもある。
ポイントはヴィッセルグッズの売店、そしてスタジアム周辺の飲食店でも使えるようにした。
混雑を迷惑がる周辺住民には、緩和そのものが地域貢献だ。さらに、協力飲食店で帰りを待ってもポイントが加算される仕組みにすることで、地域活性化にもつなげる狙いがある。アプリを開発したデンソーテンの田中真一さんは「地域のみなさんに協力してもらうことで、持続可能な仕組みにしたい」と語る。
アンケートに答えたアプリの利用者からは「待ち時間をポイントにするのは斬新。カウントダウンが楽しい」など好意的な声があった。一方、「ライブカメラの映像が小さくて見にくい」など改善点を指摘する意見もあった。実用化のめどは立っていないが、スポーツにとどまらず、文化イベントなどの混雑緩和に活用する構想もある。
実験は、27日にノエスタであるヴィッセルの試合でも予定されている。スマホにアプリを導入すれば、観戦者は誰でも参加できる。(岡田健)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。