第90回【新聞と戦争・アーカイブ】表現者たち:7
牧村健一郎
【2007年10月23日夕刊2面】
1943(昭和18)年10月21日、東京は朝から冷たい雨が降っていた。
東京音楽学校声楽部の学生だった、声楽家・音楽評論家の畑中良輔(85)は、暗い気分で雨空を見上げ、神宮外苑にむかった。
太平洋戦争が始まって2年。戦局は次第に悪化し、主として法文科系学生の徴兵猶予が停止され、彼らを送る出陣学徒の壮行会が外苑競技場で行われた。
畑中は1級下の後輩を見送るため、レインコートに身を包んで、スタンドにひっそり座った。自分にもいつ召集令状がくるかわからなかった。
東京帝国大学を先頭に、各大学の学生の行進が始まった。鉄砲をかつぎ、ゲートルをまいた学生たちが、水たまりの中をひざをあげて行進する。
東条英機首相の演説の後、「…