第92回【新聞と戦争・アーカイブ】表現者たち:9
【2007年10月25日夕刊2面】
「海ゆかば」は日本放送協会の委嘱で作られた。日中戦争が始まって3カ月後の1937年10月、国民精神総動員運動の一環として著名人の講演を放送する際、その冒頭に流す音楽、つまりは番組のオープニングテーマだった。
「とかく固くるしくなりがちなこの種の放送に適当な前奏をつけたい」と協会の文芸部長が考えたのがきっかけだった(「大政翼賛」98号)。翌月、「わかもと本舗栄養と育児の会」は、唱歌として楽譜を発行し、全国の小学校に配った(小宮多美江「信時潔と『海行かば』」)。
41年12月8日の真珠湾攻撃の日、放送局は臨時ニュースを繰り返し、「海ゆかば」は愛国行進曲などとともに流された(『放送五十年史』)。いくつかの曲の中の一つという扱いだった。
42年3月、真珠湾特殊潜航…