20年前、濱口竜介を励ました万田邦敏作品 両監督語る映画のリアル

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構成 編集委員・石飛徳樹
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 3大国際映画祭で連続受賞し、世界の注目を集める濱口竜介監督。その作風を確立するに当たり、大きな影響を受けたのが万田邦敏監督だという。万田監督の新作「愛のまなざしを」の公開を機に、2人の対話が初めて実現した。立ち上がってきたのは「映画にとってリアルとは何か」という問題だ。

 ――お二人の映画に最も共通するのは登場人物の話し方がとても無機質なことです。万田監督は「UNloved」(2001年)の時、仲村トオルさんに対して「私のイメージから一番遠い演技をしている」とおっしゃったそうですね

 万田 いま考えると、よく仲村さんにそんなことが言えたものだと思います(笑)。私のセリフは日常生活から懸け離れた不自然なものです。仲村さんは役者だから、何とか日常的なセリフとして言おうとしていました。でも私は、演技力によって自然に言うのではなく、不自然さを突き詰めていって欲しいと思いました。それを突き詰めることで、自然なリアリティーを超えた映画独自のリアリズムへと転ぶ瞬間があると考えたんです。

 僕の好きな監督、ジャンリュック・ゴダールも、カール・Th・ドライヤーも、どこかで自然さとは全く違うことをやっていた。自然ではないが、映画的な人間のリアリズムが見えました。

 ――今の万田監督のお話、濱口監督の映画のことを言っているのかと思えます

 濱口 「UNloved」は衝撃でした。1990年代のいま一つ乗れなかったムーブメントに、「即興」というものがありました。即興的な芝居は自然なようでいて、実は全く自然じゃない。一方で北野武監督に代表される「しゃべらない映画」というものがありました。映画としてはこちらが正解だと思ったけど、僕はセリフを書くことでしか映画を作ることができなかった。何か違うアプローチがないかなと思っていた時に「UNloved」と出会いました。こんなにしゃべって、こんなに不自然なのに、映画としてめちゃめちゃ面白い。励みになりました。

 万田 「UNloved」はちょっとやりすぎていたな、と反省したんです(笑)。だから「接吻(せっぷん)」では少し柔らかくなっていると思いますし、「愛のまなざしを」ではさらに柔らかくしています。

 ところで、濱口監督は「本読み」が知られています。実は僕は「本読み」ができないんですよ。役者をすぐに動かしたくなる。1度「本読み」をすると、「じゃあ、動いてみましょうか」となるんです。

 ――「本読み」というのは、撮影に入る前に、会議室などで役者たちが脚本のセリフを読み合うリハーサルのことですね

声が変わっていく

 濱口 15年に「ハッピーアワー」という映画を、ワークショップに来た演技経験のない一般の人たちで撮りました。皆さん、別の仕事があるので、あらかじめセリフを覚えてこなくても責めることができません(笑)。じゃあ「本読み」の時に覚えてもらおう、としたんです。

 すると、副次的効果として、「本読み」を繰り返す間に声が変わっていくんだなという実感がありました。僕の映画も、普段の生活では言わないことを言わせているんですが、だんだん体がリラックスしてきて、その人の人間性や存在感が素直に表れてくるような気がしました。それで、このやり方をもう少し深めていこうと思いました。

 ――濱口さんの「ドライブ・マイ・カー」では、映画の中でも演劇の「本読み」のシーンがありましたね

 濱口 「本読み」は、みんなが一緒にやるので、自分のことはわからなくても、他人の声が変わっていくのは分かる。そうすると、役者たちもこのやり方を受け入れやすいんじゃないかと思ったんです。

 ――万田さんの映画は、人物が不思議な動きをすることがしばしばありますよね。今回も仲村さんが公園でジグザグに歩いたりしていましたね

 万田 あれも現場で思いついたんです。主人公が一番狂っているところです。最初はまっすぐ歩いて立ち去っていたんです。ジグザグ歩きはルイス・ブニュエル監督の「エル」が出典です。あの映画を見ると、映画監督なら誰もが一度はやりたくなるはずです。

 濱口 これは本当に才能の問題なんですけれど、僕はアクションというのがなかなか思いつかないし、思いついたとしてもちゅうちょしてしまうんです。「現実の世界ではこれはやらないですよね」というところにとらわれてしまう。だから、役者さんには「思いついたことをやってほしい」と言っています。役者の発想に頼っているところがありますね。

 万田 僕もリハーサルで「とりあえずやってみてください」と言います。すると、「この役者さんはこういう風に動きたがっているんだな」ということが分かる。それを意図的にもっと大きくしたりします。全くゼロから発想するよりも、一度やってもらってから「じゃあこうしましょうか」ということが多いです。

想像力を使ってもらうためのリアル

 ――万田さんの映画も濱口さんの映画も、普通に考えるとあまりリアルじゃない。お二人にとって、映画のリアルって何でしょう?

 濱口 リアルというのは固定観念みたいなものなので、気にする必要はないと思っています。ただ、低予算で作っていると、観客の想像力に頼らねばならないところがある。あまりにもリアリティーがないと、その想像力が働かなくなる。だから妥協点を見つけないといけない。想像力を使ってもらうために、リアリティーと付き合う感じでしょうか。

記事の後半では、コロナ禍のリアルを描くときに避けて通れないある物についての万田監督の困惑や、本人が言われるのが嫌だという濱口監督を説明するある言葉、2人が考える映画の長さなどについて縦横に語ります。

 万田 今の映画づくりでね…

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