「政治慣れした人が新聞を作ってない?」 選挙報道は役割果たしたか

2021衆院選

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 コロナ下で初めて行われた10月末の衆院選投票率は戦後3番目に低い55・93%でした。新聞は、課題や判断材料を有権者に十分伝えられたでしょうか。朝日新聞が11月6日に開いた「あすへの報道審議会」で、パブリックエディター(PE)と読者、本社編集部門の記者らが意見を交わしました。

 伊奈東子(とうこ)さん(読者) 大学2年生で、今回が初めての投票。今の社会は「こうあるべきだ」ということが多く、いろんな生き方が認められないことに生きづらさを感じる。少しでも社会がよくなる方法の一つかなと思って選挙に行った。

 藤田美輪さん(読者) キャリアコンサルタントとして中小企業の人材育成に携わり、大学・短大でも授業をして学生と接する機会が多い。私は必ず投票している。企業の方々と話すと政治に期待していない、という冷めた感がある。

 登坂(のぼりさか)万夢美さん(読者) 家族や身近な人は選挙に行かず、話題にもならなかった。でも大学を出て会社で3年働くうちに、子育てや年金など将来への不安が出てきて、自分の力は小さいけれど投票しよう、と。わからないことだらけで情報を探した。各党や候補者の意見を図式化した「朝日・東大谷口研究室共同調査」は参考になった。

 坂尻信義・ゼネラルエディター兼東京本社編集局長 私が投票することの力を目の当たりにしたのは1998年、内戦後のカンボジアで初めて行われた自前の総選挙を取材した時。若者がはしゃいで投票所に列をなし、票を入れたよ、と手を掲げて目をキラキラさせていた。かたや日本は2人に1人が投票しない。今回、一人でも多くの人に関心を持ってほしいと思い、適切な判断材料を示すことを心がけた。朝日新聞デジタルでは、「朝日・東大調査」の質問にスマホやパソコンで答えを入力すると自分の考えに近い政党や候補者がわかる「ボートマッチ」など、あの手この手で企画を展開した。

 三輪さち子・政治部記者 コロナ禍で生活と政治の結びつきがかつてないほど強く感じられた中で、選挙を迎えたはずだった。しかし、投票率は思ったほど上がらなかった。なぜなのかは自分でもいまだに消化できていない。判断材料として政策を問う記事がもっと必要だという議論をしてきた。紙面全体で、コロナ禍の中での貧困、夫婦別姓気候変動などの問題を問い直した。しかし、こうした問題と各党の訴えがどう結びつくのか、課題が残った。

 高村薫PE 例えば容易には解決しない問題の現場を見つめた「危機の時代に」(10月16日から全7回)、賃金や家計など現実の厳しさを数字で検証した「日本経済の現在値」(同20日から全5回)は、日本が今、どういうところにあるかを総合的に浮かび上がらせた。投票率が伸びないのは、政治と国民の生活をつなぐ回路がなく、有権者が政治に距離を感じるからだろう。そこをつなぐ補助線になる記事が必要だと思う。

 小松理虔PE 政治に慣れきった人が新聞をつくっていないだろうか。

情勢調査、投票への意欲下がる可能性

 伊奈さん 政党の考えの違いが知りたくて公約が並んだ紙面を読んだ。市民有志が作ったサイトも見たら、質問に対する政党の回答に○△×の評価がついていて、わかりやすかった。選挙では政党も候補者もきれいごとを並べる。新聞は報じた公約が実現されたのかや、できなかったとしてもどこまで本気で取り組んだのかを伝えてほしい。

 高村PE スローガンのような公約を一方的に載せるのでは選挙公報と同じ。読者が知りたいのは、それらがどこまで適切なのか、それとも絵に描いた餅なのかだ。

 小沢香PE 読者から本社に寄せられた声でも、与党の公約の達成度を採点し、野党は法案採決や国会質疑で公約通りの姿勢を貫けたかをチェックしてほしいという意見が多かった。

 藤田さん 公約は大事。加えて候補者の実像を詳しく知りたい。その人の人生や人間くさいエピソードをもっと伝えてほしい。

 岡戸佑樹・東京社会部記者 候補者情報へのニーズは高いと感じる。地域面では短い横顔記事しか載らないが、デジタルも使って人となりをもっとたっぷり書き込んでもいいと思う。

 堀江浩・編集委員 記者は課題を見つけて提示するのは得意だが、読者が投票する気になるところまでつながっていない。ある課題に対して政治家が何をし、制度にどんな問題があり、市民がどんな行動を起こしたかなどの全体像を示しつつ、成功や失敗例を伝えるルポが今後は必要だろう。

 野村雅俊・PE事務局長 候補者紹介や公約に加えて、情勢調査も選挙報道の定番になっている。

 藤田さん 投票日の5日前の1面に「自民、過半数確保の勢い」と載ったが、「結果が見えているなら、投票に行かなくてもいいんじゃないか」と意欲を失ってしまう人が増えるのでは。

 高村PE 私も何のためにするのか、必要性も含めて、いつも不思議に思う。

 堀江 情勢調査は読者の関心が高いニュース。選挙戦略のために独自の調査を頻繁に行う政党側に対し、有権者が何の情報もなく投票日を迎えていいのかという思いもある。また、有権者が自分の1票を、当選につながらない「死票」にしない判断材料となるのではないか。例えばある候補が小選挙区での当選は難しそうでも、比例代表では復活当選する可能性が高そうか、情勢調査が参考にもなる。

 伊奈さん 死票は悪いことなのだろうか?

 堀江 悪くないがもったいないのでは。結果としては自分の意思が国政に反映されないことになるから。

 高村PE その説明と、死票にならない投票のしかたを、情勢調査の記事に加えるべきだと思う。

 小沢PE 当選可能性があるからと考えの合わない人に妥協するより、純粋に一番いいと思う人に投票するのも一つの意思表示だ。

 山本龍彦PE 今後、AI(人工知能)でSNSのデータなども含めて分析していくと、情勢調査はさらに正確になるだろう。だが精度が上がるほど、有権者は選挙結果を想像できて、投票への意欲が下がる可能性が出るジレンマはある。

若者へのアプローチ、新聞が後押しを

 藤田さん 衆院選後の授業で学生と話したら、自分も親も行かなかった、そもそも投票って何をどうするの、習ったこともない、という話になり驚いた。

 伊奈さん 私は大学生になって在留外国人の支援活動に出会い、議員事務所でインターンを経験してはじめて、自分の思いが政治とつながっていると気づけた。社会の構造に問題があるのに、悩みや不安は自分のせいだと思う人は大勢いると思う。

 登坂さん 私の場合は、好きなアーティストがインスタグラムに報道機関の選挙サイトをアップしていて、情報に触れた。投票率は低くても、夫婦別姓など動きを感じるものはある。

 三輪 選挙中、街頭演説を熱心に聞いていた女子高校生がいた。聞くと、SNSで痴漢問題を訴えていることを知り、選挙区外から来ていた。「これは政治の問題で、こんな社会を変えようよ」という訴えに、彼女は「そうか」と気づいていた。身近で関心のある問題に、若者は行動を起こす。

 岡戸 与野党ともにベテランが小選挙区で落選し、「古い政治はいや」との意思を感じた。選挙はそういう民意を示す場なんだ、若者も民意の積み重ねで国を変えられるんだという実感を持てるようにしたい。

 多賀谷克彦・ゼネラルマネジャー兼東京本社編集局長 1990年代後半以降に生まれたZ世代は、環境に配慮した消費行動をとるなど、関心のある分野に強く反応する。政治への考え方もそうかもしれない。

 山本PE 好みや志向で「個別化」された情報の中で生きる若者と、政策を「パッケージ」で提示する政党にはズレがある。政党側の変化も必要だが、新聞社も例えばデジタルで世代や地域ごとに情報を出し分け、若者の個別化された世界に割って入っていいのではないか。それにはヤフーなどのプラットフォーム企業との連携も重要になる。

 小松PE 問題意識の強い人や、本当に困っている人たちの声は取り上げられる。でも、政治につながらず将来も見えていない人はたくさんいる。投票なんて行かなくていい、という人たちを、何がそう思わせているのかを知りたい。

 高村PE 投票に行かない若者と政治を結びつけるのは、本来は政治がやるべきことだ。長期的な政治教育を含めた政治から若者へのアプローチを、新聞が後押ししてほしい。

 小沢PE 政治は政治家だけのものなのか。自分たちが直面した問題に対応するのが原点では。日常の困りごとに人がつながる現場から、政治の芽をとらえる視点が大事と思う。

 小松PE 今回、僕が暮らす福島県いわき市小名浜地区の投票率は43・87%しかなかった。でも、本当はごみの出し方とか商店街の明かりの問題とか、市政、県政レベルから政治的な回路がないといけない。普段から生活に密着した報道をしていく必要がある。

 岡戸 選挙報道が一時的な「季節もの」である以上は限界を感じる。政治と生活をつなぐためにはもっと長い期間、継続的に報道しなければならない。

 角田克・取締役編集担当 新聞社は時間の縛りもあって前例踏襲や現状維持に陥りやすい側面がある。昨日、今日、明日のことだけでなく、うんと先まで見据えた継続的、分析的な報道をもっとしなければと痛感した。選挙公約や政策の検証も、読者に得心していただけるよう報じていきたい。(司会は野村事務局長)

 パブリックエディター(PE)

 読者から寄せられる声をもとに、本社編集部門に意見や要望を伝える役割を担う。

     ◇

 会議は感染症対策を徹底し、写真撮影時に1人ずつマスクを外しました。高村PEと読者3人はリモートで参加しました。

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2021年11月26日13時41分 投稿

    【視点】現在の新聞は、読むのが大変だと思う。 新聞記事は、昔より質が向上している。一つの記事に盛り込まれているデータ、背景知識、間違いの少なさなどは、全部とは言わないにしろ、平均的には今のほうが質が高いと思う。これは歴史を研究する人間としての

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