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「子どもたち、笑ってつながって」 大学生が病院ラジオに挑む

熊井洋美
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 「くすのきボ~イス!」

 11月15日の昼どき、佐賀大学医学部付属病院(佐賀市)の小児科病棟に、軽快な音楽とともに、男子大学生の弾んだ声が響いた。

 入院中の子どもたちが笑顔になれる時間を過ごしてもらいたい、と東京の大学生3人が発案した病院ラジオ「くすのきボイス」の初めての放送だ。

 インターネットを使い、院内限定で対象患者を絞って番組を配信する構想で、佐賀大学病院は導入を決めた第1号となった。

 「ベッドの高さ、動かして遊びがち」「病院食が意外とうまい!」「消灯時間が早すぎる」……。入院中に感じる「あるある」な出来事や、おすすめのアニメ番組などを紹介し、約10分間の放送は終わった。

 患者からは「突然ラジオが始まったので驚いた。院内でエンターテインメントに触れる機会は少ないので楽しく思った。今日は気分転換できたのでよかった」、病院スタッフからは「病院に若いお兄さんやお姉さんの声が流れるだけでも雰囲気が明るくなりました」といった感想が寄せられ、3人はほっと胸をなで下ろした。

10回以上の手術と入院 闘病生活が原点

 言い出したのは、東京大学2年生の田堂(でんどう)皓也(こうや)さん(21)。入退院を繰り返した幼少期の体験が、試みの原点だ。

 1歳のときに重い肝臓の病気がわかり、手術を受けた。

 小学1~3年生の時期にも入退院を繰り返した。手術は通算10回以上にのぼる。

 親に渡された漢字ドリルはやる気が出ず、楽しみは3時のおやつと子ども向けのテレビ番組ぐらい。

 医師も看護師も親切で、他の人より恵まれた入院生活だったと思う。

 けれど、放課後にサッカーに汗を流す友人を思うと、寂しさや退屈を感じる瞬間もあった。

 ソニーと東大の社会連携講座を受講していて、仲間に入院中の子どもたちにラジオを楽しんでもらうアイデアを投げかけた。

 集ったのが、東大1年の中野友紀崇(ゆきたか)さん(19)と、デジタルハリウッド大学1年の門脇佑華(ゆうか)さん(18)だ。

 中野さんは「くすのきボイス」の名付け親。中学・高校時代に親元を離れて寮で過ごし、深夜ラジオに支えられた。

 「笑い声で皆とつながれる時間は大切」。出身の佐賀県の県木で薬効もある「クスノキ」に、「くすっと笑って欲しい」との願いも込めた。映像制作やウェブデザインを学ぶ門脇さんは、「くすのきボイス」のロゴを制作し、音声編集などの技術面を担う。門脇さんの知人の声優の協力をもらい、3人は番組のサンプルを作り、ウェブサイト(http://kusunokivoice.com別ウインドウで開きます)で公開している。

 佐賀大学病院の松尾宗明・小児科教授は、「コロナ禍で、今までボランティアの協力をもらって開催していたマジック教室などが出来なくなり、入院中の子ども同士やスタッフとの交流機会は減った。面会・外泊なども制限ばかり」とコロナ禍の状況を振り返り、「短い時間ではあるけれど、放送を通じて話題作りや病棟の中での気持ちのつながり、気分転換になるのではないか」と期待を寄せる。

 3人は、本格始動に向けてさらに準備を進めながら、導入してくれる病院や運営仲間を募集中だ。

 田堂さんは「まだ課題が多いけれど、長く活動を続けられるような事業モデルを作りたい」と話す。(熊井洋美)