第40回【新聞と戦争・アーカイブ】それぞれの8・15:8
【2007年4月11日夕刊3面】
すれ違いざま、伊沢紀(ただす)がささやいた。
「戦争はまもなく……」
その先は口にしなかった。しかし、伊沢が「戦争は終わりだ」と伝えようとしたことは、当時20歳の金子利夫(82)にはわかった。
45年7月下旬、鎌倉でのことだ。
戦後、「飯沢匡(ただす)」のペンネームで劇作家として名をなす伊沢は当時、空襲で東京の家を焼け出され、鎌倉の兄の家に住んでいた。金子は、朝日新聞活版部に勤め、整理部員だった伊沢としばしば仕事をした。伊沢の指示をうけて、活字を組み上げるのだ。伊沢に出会ったとき、金子は、召集されて鎌倉の部隊にいた。
伊沢が小声でいった。
「金子君、命を大事にして帰…