スズキが考える、ちょうどいい背の高さとは? ワゴンRスマイル試乗

北林慎也
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 国内自動車販売台数の半分近くに迫る軽市場で、ひときわ伸長著しいハイトワゴン。後席両側スライドドアを目玉装備として、スズキが今年9月に「ワゴンRスマイル」を発売した。ラインアップの空白を埋めるべく、大ベストセラーの名を冠してシェア奪取に挑む一台。試乗で出来栄えを探った。

上方向に伸びるしかない軽

 いまや路上の軽乗用車の大半は、背の高いハイトワゴンだ。このカテゴリーの元祖が、スズキが1993年に投入した初代「ワゴンR」。それまで商用バン兼用のワンボックス以外にワゴン車の選択肢がなかったところに、手頃なサイズの使い勝手の良さが受けた。この大ヒット以来、軽の売れ筋はどんどん背が高くなっていく。

 この間、日本人の体格は大きく変わっていない。しかし、車内空間の広さがもたらす快適さと利便性への欲望は際限がない。白ナンバーの登録車は全幅がどんどん広がり、トヨタ自動車カローラ」クラスのコンパクトカーも3ナンバーサイズが当たり前となった。

 ただ、幅と長さの最大寸法が規格でがんじがらめの軽自動車はおのずと、まだ余裕のある上方向に高く伸びるしかない。結果、ホンダ「N-BOX」やスズキ「スペーシア」のようなスーパーハイトワゴンが売れ筋となる一方で、そこまでのデカさを求めず、ほどほどの背丈で、かつ便利な後席両側スライドドアを望むユーザーも増えた。

 ダイハツ工業はこうしたニーズの細分化を踏まえ、2016年に「ムーヴキャンバス」を発売。ちょうどよい背の高さのスライドドア車としてロングセラーになっている。スズキにはこのサイズの車種がなかったため満を持して、ビッグネームの「ワゴンR」を冠した派生車種として、ワゴンRスマイルを投入した。

便利な電動スライドドア

 ワゴンRスマイルは、全高がワゴンRより45ミリ高く、スペーシアより90ミリ低い。文字通り適度な大きさ。特に、背が高くなるにつれ大きく重くなるテールゲートがほどほどのサイズに収まるのは、車体後方の空間が狭くなるバック駐車で、開け閉めに気を使わずに済むのでありがたい。

 そして、このクルマ最大のセリングポイントが、後席両側のスライドドア。重いドアパネルは電動のワンタッチ開閉で、ゆっくりと閉め終わる前に車外から予約ドアロックができる。スズキによると、昨年度の全メーカーによる軽乗用車総販売台数のうち、半数超がスライドドア車だったという。近場の買い物や家族の送迎といった日常使いでは確かに、この便利さは手放し難い。

 内外装のデザインは、主な購買層である女性を意識した柔和な造形でまとめたが、装飾は「ラパン」ほどファンシー志向にせず、シンプルに抑えて万人受けを狙う。上級グレードはめっき加飾のフロントマスクが備わるが、下位グレードの、懐かしい昭和テイストも感じさせる質素なデザインのほうが、飽きが来ないだろう。

 車台は、スズキの新世代プラットフォーム「ハーテクト」をベースとした最新の設計で、高い剛性と徹底的な軽量化を両立させる。ガッチリしたボディーは静粛性に優れ、マイルドハイブリッド仕様の上級グレードでは、アイドリングストップからの発進もスムーズで振動も皆無だ。

 ただ、全車でターボは付かず、加速時にはストロングハイブリッドのような力強いモーターアシストも無い。そのため、郊外の試乗ではどうしても、合流時などにアクセルをベタ踏みで前後の流れについていかざるを得ない。日本の狭い国土は、ちょっと田舎道を走ればいや応なく山と坂にぶち当たる。平らな道でも、郊外のバイパスの流れは意外と速い。このクルマの主な使途が、地方における日常の足となるのを鑑みると、やはり、燃費をいくらか犠牲にしてでも最小限プラスアルファの馬力を稼ぐ、ターボ仕様という選択肢が欲しい。

時代とともに移ろうカタチ

 スズキのマーケット調査によると、単身生活で後席にめったに人を乗せない若いドライバーでも、幼少から家族グルマのミニバンで育ったため、「後ろのドアはスライドドア」というのが当たり前、クルマのスタンダードという認識の人が多いという。ちびっ子がみな、平べったくて窮屈そうなクルマに憧れたスーパーカーブームの往時とは隔世の感だが、万人に身近なクルマのカタチも大きさも、時代の移ろいとともに変わっていくのだろう。

 市場が縮小する国内向け専売で規模のメリットが見込めない軽規格においても、そんなニーズの変化を細かくくんでラインアップの穴を埋める貪欲(どんよく)さと、この完成度で129万円台からという価格競争力の高さに、スズキの軽メーカーとしてのプライドを感じた。今年6月に鈴木修会長が相談役に退いたが、顧客重視の社風は変わっていない。

 ワゴンRスマイルの開発責任者は、小さな車体に重くて大きいスライドドアを取り付けつつ剛性を保ち、重量増と価格上昇を抑え、癖のないハンドリングに調律するには多大な知恵と技術が要る、と語る。また、そうして社内で培われた開発ノウハウは、より技術的困難の小さい、背が低い普通のヒンジドアの車種の設計にも生きるという。スズキは今冬にも、軽の標準車こと「アルト」を全面改良する見通しだ。その出来栄えにも期待したい。(北林慎也)