衆院選で若手記者が感じたモヤモヤ 当事者や識者と考えたその裏側

聞き手・太田原奈都乃、長妻昭明、堀越理菜、前田健汰
[PR]

 選挙はなぜ大事なの? 一票で政治は変わるの? 衆院選を取材した若手記者も、一人の若者として様々なモヤモヤを選挙に感じてきました。山口と熊本の若手記者による朝日新聞デジタルの企画「若者×記者が見る衆院選」で考えた選挙への違和感を当事者と考えます。

 入社3年目の山口、熊本両総局の若手記者4人が、初めての衆院選取材で感じた政治へのモヤモヤや違和感に向き合った朝日新聞デジタルの連載企画。

 同世代の若者はなぜ投票率が低いのか。どうすれば選挙や政治の記事が若者に届くのか――。そんな問題意識から始めた企画の途中経過も明かしつつ、若者と政治、若者と新聞の間にある大きな溝を埋めるヒントを探そうと、日頃は見過ごしがちな若者の本音や当事者の思いに迫りました。

 当事者にしか分からない若者の思いを同世代の記者として描く。そんな取り組みを通じて、選挙報道や新聞のあり方を考えました。

Apple PodcastsやSpotifyではポッドキャストを毎日配信中。音声プレーヤー右上にある「i」の右のボタン(購読)でリンクが表示されます。

参院議員 伊藤孝恵さん(46)

永田町は「普通じゃない町」 少しずつの変化で既視感作る

 永田町に初めて来た5年前、「普通が普通じゃない町だな」と戸惑いました。女性議員が少なく、乳幼児2人を育てながらの議員は私以外にいなかった。

 ジェンダーだけではありません。議員を「先生」と呼ぶ、大臣が通る時は道をあける――。「こうするもんだ」という形式的な決まりが色々あって、「何の意味があるのか」と問われることを嫌う風潮もあった。

 大事にすべき決まりもあると思います。それを必要とする人への敬意や理解を軽んじて主張しても、何も生まれません。それでもこの町を変えられるのは、議員自身。口にし続けることでしか変えていけません。

 周囲に「慣れてもらう」のが大事でした。議員会館の自室に子どもの遊び場を作ると「うるさい」と怒鳴り込んでくる人がいた。メールや電話、SNSへのメッセージなどで、批判を1500件は受けた。バッシングや周囲の視線は私も怖かった。でもいま、子どもが走り回っていてもけしからんと言われることはありません。子どもにチョコレートをくれる人はいます。

 この風景への違和感を受け入れてもらえたということではないでしょうか。ルールを変えると悪いことが起こると考える人に「実はそうでもないんです」と示す。そうしてある一定の「既視感」を作れば、その先は自分か別の誰かが、開拓していけます。

 手応えもあります。待機児童問題など、子育て政策を推進する「ママパパ議員連盟」では党派を超えて連帯しています。個人の活動では働きかけが届き10歳未満の子どもが参院を傍聴できるようになった。本会議場に車イスの人の視界が妨げられない席も設けられた。自分がスピーカーとなり、問題と思うことを真っ正面から口にし続けることがやっぱり不可欠でした。

 普通が普通じゃなく、数がものをいう。そんなこの町でコンセンサスを得るにはどうすべきか。

 違和感は「感覚」で、経験から生まれてくるもの。自分と同じ経験をしていない人と課題意識を同じくするのは難しいこともある。迎合することも、真っ向から対立して戦うということもなく、少しずつ変化を起こして「慣れてもらう」ことで、明るく突破していく。メディアと政治家ももっと協働できると思う。これが私なりの違和感への向き合い方です。(聞き手・太田原奈都乃)

東京都立大准教授(現代日本政治) 佐藤信さん(33)

少数の訴え 熱意と戦略を持てば政治に届く

 政治がマイノリティーに寄り添うべきかというと、実は微妙です。政治家は公の利益のために働くことが役割で、予算などにも制限があるため、すべての人に補償などを与えることは不可能です。

 むしろ政治はあるべき社会を実現するため、それぞれが求める利益をうまくまとめる変換装置的な役割を担っています。

 そうは言っても選挙は数を数える制度です。水俣病のように時代と地域が限定される人の訴えは軽視されがちです。

 ただ、国民の声を政府や政治家に届ける方法は選挙だけではありません。私が研究している難病の問題では、医療費の助成を受けられる対象を拡大する難病医療法の成立過程で患者らの声が届きました。

 別々に活動していた患者団体が一丸となって国会議員や省庁に陳情に行き、メディアを通じて発信しました。理想だけを訴えるのではなく、永続的な制度にするために社会保障費が増える現実を考慮して、一部患者の自己負担増を受け入れました。

 将来を見据え、実現可能な提案をしてくれる人は政治家や官僚にとっても頼るべき相手になります。政治家は公の利益を実現しようとしている点で敵ではないので、マイノリティーでもなぜ耳を傾ける必要があるのかを説得することが重要です。

 政治は数が物をいう世界ですが、マイノリティーであっても政治がどのように動いているかを理解して、熱意と戦略を持って訴えることで声を届けることはできるのです。(聞き手・長妻昭明)

クリエーティブディレクター 辻愛沙子さん(26)

「大人の理想」でない多様な声を 越境して発信を

 メディアは、上の世代が作ってきた社会の課題を解決する役回りを若者に押しつけていませんか。例えば、環境問題は同じ時代に生きる全員の課題なのに、「若者が語る」として若者だけに背負わせがちです。記者が「大人が理想とする若者の声」を言わせようとしていると感じることもある。若者の声に光を当てつつ、アクションはともにやっていく連帯が必要なはずです。

 普段、一生懸命生きていると自分が何でモヤモヤしているのか感じる暇もない。「私って社会に対してどんなことを思っているんだっけ」と自分に向き合うきっかけとしても選挙を捉えられたらよいと思う。

 選挙は、連ドラを途中から見るようです。前回までの動きを伝えていないから、若者は興味関心が持てないのでは。「そもそも」の質問は聞きづらい。点ではなく文脈を伝える情報が増えてほしいです。

 多様な伝え方も大事です。「政治っぽさ」は若者が普段目にしている世界観と乖離(かいり)している。クリエーターと政治部の記者が「越境」して一緒にコンテンツを作るなど色んな世界観があったらいい。知名度や話題性などで選ばず、様々な人の等身大の声を届けたり生活に身近な視点から語ったりと、多様な主語やトーンが必要だと思います。

 衆院選前に立ち上げた「GO VOTE JAPAN」では、SNSを使った企画で有権者が声を上げやすくする仕組み作りなどをしました。今後も継続して活動します。(聞き手・堀越理菜)

山口大教授(政治哲学) 小川仁志さん(51)

入り口を変えて政治色を薄める 「床屋政談」のすすめ

 投票権が18歳以上に拡大した時も今回も、若者の投票率は上がりませんでした。「選挙に行こう」運動だけでは変わりません。政治に関心が無い人を動かすには、きっかけを与える必要がある。日常的に見聞きする意味で効果が大きいのはやはりSNSでしょう。若者目線で政治に関するメッセージを発信し続けることが必要です。

 昔は床屋で自然に政治の話をしていました。これをネット上でできないか。SNSでもっと自由に政治の話をすべきで、私は「床屋政談2・0」と呼んで推奨しています。「消費税上がってこんなこと困っちゃったよ」くらいの軽さでどんどん政治の話をしていきましょう。その際は話の切り口が大切になります。

 私の専門の哲学も同じだから分かるのですが、入り口に「哲学」と冠すると身構えられる。私の本で一番売れた本の題名に「哲学」は入っていません。ビジネスや芸能から入り、身近な生活につなげていって「実はこれも政治の話だったんだ」と持っていく。入り口を変えて政治の色を薄めて届けることを、政治家もメディアも取り組むべきです。

 今回、デジタル版の記事で「何事もなく政治が続くのが一番」という市議の言葉がある。これはあくまで政治家の勝ち方の話です。政治の役割は「利害関係の調整」で、政治について発言することは争いに関わることです。必ず誰かと対立し、誰かにとって異質な存在になる。「みんな一緒」ではなく違うことを許容すること。それが政治に向き合う時の心構えです。(聞き手・前田健汰)

同世代への伝え方 考え続けたい 山口総局 太田原奈都乃

 「違和感に慣れてきた」「若者が知りたいことを伝えられた自信がない」。衆院選取材を4人で振り返ると、そんな反省が口をついた。若者の一人として抱く、政治や選挙報道への違和感。その感覚を選挙取材を重ねながらも持ち続け、日々の紙面作りに生かしていくことは想像していたよりもずっと難しかった。

 同世代は新聞を読んでいない。企画を機にツイッターで発信を始めた。反響があっても同世代に記事が届いた手応えはない。「若者の政治離れ」と言うけれど、新聞記者となった自分は同世代に政治を届けようとしてこなかったと気づいた。

 10代の投票率は今回、43・01%。

 どうすれば若者に政治を伝えられるか。記事の中身や届ける手段、表現方法。答えはまだ見つからないが考え続けたい。(太田原奈都乃)

写真・図版

  • commentatorHeader
    牧原出
    (東京大学先端科学技術研究センター教授)
    2021年12月1日11時51分 投稿
    【提案】

    この特集について、Podcast「ニュースの現場から」で、担当の記者の方々の生の声が配信されており、興味深い企画でした。ただ、改めて朝日新聞の記事で、「若者」「政治」と入れて検索してみると、「若者」というフレームが、すでに「若者」に対して、