どうしても書けなかった「ちいちゃんの恋」 かげおくりと私と戦争

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聞き手・山内深紗子
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「ちいちゃん」は、恋をしてお母さんになるはずでした――。国語の教科書にも採用されている絵本「ちいちゃんのかげおくり」の作者あまんきみこさん(90)は、当初の構想をこう振り返ります。でもどうしても恋する人生は書けなかった。難産の末、10年かけて完成させた物語やその思いについて聞きました。

「ちいちゃんのかげおくり」(あかね書房、1982年、累計48万部)

体の弱いお父さんが出征する前に、ちいちゃんは家族4人でかげおくりをします。ある日、ちいちゃんが住んでいる所にも空襲があり、ちいちゃんはひとりぼっちになってしまいます。家族を想って、再びひとりで、かげおくりをすると――。

 ちいちゃんは、出征するお父さんから、「かげおくり」の遊びをこんな風に教えてもらいます。

 「とお、かぞえるあいだ、かげぼうしを じっと見つめるのさ。とお、といったら、空を 見上げる。すると、かげぼうしが そっくり 空に うつってみえる」

唯一気後れせずに遊べた

 私は旧満州中国東北部)生まれで、のろまな子でした。唯一お友だちと気後れせずに遊べたのが、かげおくり。病弱だったので、お布団に横になっている時は、窓から見える空をながめては、かげぼうしを反芻(はんすう)したり、ファンタジーの世界に飛んでいったりしていました。

 9歳で大連に引っ越し、南満州鉄道に勤めていた父、母と祖父母たちと暮らしていました。敗戦後、ソ連軍の占領下でふた冬を過ごし、15歳で大阪に引き揚げ、20歳で結婚。娘と息子を授かりました。

 その後、夫の転勤で引っ越した東京で、子育てしながら国会図書館に通い、通信制の大学で学び始めました。そこで満州事変日本軍の工作で起こったのだと知りました。教えられていたことは全部うそだった。中国の人たちのつらい境遇にも気づかなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

 40歳になる前に「車のいろは空のいろ」でデビューしました。その少し前から、かげおくりをテーマに何か書きたいと思い始めました。当初は、ちいちゃんのお母さんのなみこちゃんから始まり、ちいちゃんは戦争を生き残って恋もして、せんこちゃんのお母さんになる3代の女性のかげおくりの話にするつもりでした。

私の年輪にある哀しみと悔い

 でも何回書き直しても、ちい…

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