「県の主張奇想天外、遺族苦しめる」給食死亡事故訴訟、母が思い語る

倉富竜太
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 大分県立南石垣支援学校(別府市)で2016年9月、高等部3年の林郁香(ふみか)さん(当時17)が給食をのどに詰まらせ、その後死亡した事故で、遺族が県などに損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が26日、大分地裁(石村智裁判長)で開かれた。林さんの母親で原告の香織さん(51)が意見陳述をし、訴訟での県の主張は事故調査委員会(事故調)の報告書の内容を覆すようなものだと指摘し、批判した。

 事故を巡っては、県教委が設置した事故調が16年12月25日から約2年半にわたって計67回会議を開き、延べ51人から聞き取り調査を実施。19年7月に報告書をまとめ、「重度の知的障害のある林さんは、かまずにのみ込む恐れがあるため、給食の際は教職員が見守っていた。教諭が、数分席を外した間に食べ物を口に入れすぎてのどを塞がれ、呼吸困難になった」と結論づけた。

 大分地検は昨年4月、業務上過失致死容疑で書類送検された当時の校長と担任教諭、養護教諭2人を不起訴処分(嫌疑不十分)とした。県教委は同月、見守りや救命措置が不十分だったとして、当時の担任教諭と養護教諭を減給の懲戒処分にし、当時の校長を文書訓告、教頭2人を厳重注意とした。

 だが、原告側代理人の弁護士によると、訴訟の中で県側は、「給食中に常時見守る注意義務はなく、一次救命処置はできなくてもやむを得なかった」と訴え、「摂食機能やそしゃく機能の不全や障害があると指摘されたことはなく、食べ物をかき込むように口中に入れるからといって、食べ物をよくかまずにのみ込むことにはならない」と主張。死因についても、別の急病で倒れた可能性を指摘したという。

 香織さんは、この日の意見陳述で、「裁判になって急に、郁香が別の急病で倒れた可能性があると主張し、胃から逆流したものがのどに詰まった可能性があるなど、奇想天外な主張をしている。事故調の報告書の内容を否定し、その結論までも違うと主張しています」「裁判での県側の主張は、郁香の人権を踏みにじっているとすら感じ、私たち遺族を苦しめている」と述べ、県側の姿勢を批判。「事故から5年が過ぎても、まだ娘の死について全てを知ることができたとは思えない状況です」と、時折涙で言葉を詰まらせながら語り、「訴訟の中で真実を明らかにし、本当の意味での再発防止に努めてほしいと心から思っています」と訴えた。

 原告側代理人の徳田靖之弁護士も、死亡との因果関係の有無が争点となっていることに疑問を呈し、事故直後に救命にあたった病院の担当医が、林さんの食道から胃にかけて、そしゃくされていない大量の卵焼きなどの食べ物が残っており、その食べ物により窒息し、低酸素脳症で死亡した、と診断したことを指摘。「真相の究明と再発防止のためには、事故発生に至る経過の正確な再現が何よりも重要であり、自らの責任を免れるために、事実関係をゆがめることは、亡くなった林さんをぼうとくするもので、絶対に許されないことだ」と訴えた。

 傍聴に訪れていた「学校事故・事件を語る会九州」呼びかけ人の安達和美さん(60)=長崎市=は「学校事故の多くの裁判を傍聴してきたが、ほとんどの裁判で、裁判の前後で証言を覆している。林さんのケースでは、裁判で明らかに事故調の報告書を覆しており、遺族は2度被害に遭っているようなものだ」と憤った。

 香織さんは閉廷後、朝日新聞の取材に対し、「私は未来の教訓のために、郁香を産んで育てたわけじゃない。でももう郁香は帰ってこない。だからせめて教訓にしてくれなければ、郁香の死がむだになってしまう」と語った。(倉富竜太)