ゆったりと流れる川に太陽の光がキラキラと反射する。川辺に座り、風に揺れる木の葉の緑に一息つく。
観光ガイドを見て、そういう旅を期待していた。
11月上旬、イラン中部の古都イスファハンを訪れた。人口200万人を超える第3の都市は砂漠に囲まれ、排ガスに混じって乾いた砂の臭いが漂っていた。
街の中心部を東西に流れるザーヤンデ川を目指した。公用語ペルシャ語で「母なる川」を意味し、全長400キロあるイラン中部で最大の川だ。
イスファハンはこの大河の豊かな水に潤され、「世界の半分」と称されるほどに発展した歴史をもつ。
サファビー朝(1501~1736年)の第5代王アッバース1世が1598年、イスファハンを帝都に定めた。その頃にできたイマーム広場はユネスコの世界遺産に指定され、世界中から観光客を引き寄せてきた。
しかし、目の前に広がる川の様子に言葉が出なかった。
薄茶色の土はむき出しになり、雑草が生い茂る。川底にはひび割れたガラスのような模様があたり一面、広がっている。
地元で生まれ育った自営業アラシュ・バフティアリさん(26)は仕事の途中で立ち寄った。「子どもの頃は友だちと水遊びをした。思い出の場所がひどい姿に変わり、心が痛む」
川が枯れるようになったのは2000年代の初めから。今ではほぼ全域が枯れ、1年でせいぜい10日ほどしか水が流れないとされる。
もともと雨の少ない乾燥した地域ではある。
統計によると、イスファハンの年間降水量は、昨年までの30年間の平均をもとにした平年値で148ミリ。東京都の1割にも満たない。特にこの1年間の降雨量は過去50年で最少レベルといわれている。
イスファハンの平均気温は9月までの1年間で平年値より0・6~4・1度、高い月があった。
ザーヤンデ川の西110キロには、1971年に完成した総貯水容量14・5億立方メートルのダムがある。日本最大の徳山ダム(岐阜)より2倍超の規模だが、11月上旬の時点で貯水率は12%ほどしかない。
それでも、郊外の農地は青々としている。イマーム広場や周辺の公園、街頭の木や芝生は緑に覆われ、散水する作業員を見かける。
枯れた川に代わって、地下水が用いられてきた。掘れば水が出る。そう考えた人たちがどんどん井戸を掘り、深刻な地盤沈下を招いた。
あと10年で住めなくなる――。地元選出の国会議員は、イスファハンが直面する危機をそう指摘する。(イスファハン〈イラン中部〉=飯島健太)
忍び寄る「静かなる地震」
地下水の過度な取水が招いた地盤沈下は、イランの古都イスファハンに大きな傷痕を残していた。
ザーヤンデ川から北へ7キロ離れた街の中心部、ハーネ・イスファハン地区。小型の食料品店や雑貨店が道路に沿って軒を連ねる。
その一角に、イラン空軍の職員向けに整備された住宅地がある。
地元住民によると、元々は農地だったが、王制が倒された1979年の革命よりも前に再開発され、500戸の一軒家が建てられた。4年前、一部を除いて民間に払い下げられた。
関係者の案内で住宅地を見て回った。一区画あたり平均500平方メートルの広さで、庭付きの2~3階建てが整然と並ぶ。
だが、生活のにおいがしない…
- 【視点】
気候変動が進むことによって起こることは、争い。平和が失われていくことが一番怖い。飲水がなくなり、住む場所がなくなり、食べ物がなくなり、気候難民になっていく。でもそもそも難民を温かい気持ちで受け入れてくれる国は世の中にどれくらいあるのか?実際
- 【解説】
こうした問題は、地球温暖化や気候変動だけが原因ではない。 下記のビデオはイラクの事例だが、基本は取水の過剰である。ただしそこに、「大河のより上流の国」がダム開発や取水を大規模に行ってしまい、その川の下流の国で渇水や環境汚染が深刻化する