「子育てに支障」転勤拒否訴訟 大阪地裁がNEC系元社員の訴え棄却
ひとり親のため育児に支障が出る転勤を拒み、それを理由に懲戒解雇されたのは不当だとして、NEC子会社の元社員の男性(55)が起こした訴訟の判決が29日、大阪地裁であった。中山誠一裁判長は「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるとはいえない」などと指摘し、転勤命令は「人事権の乱用」で無効だとする男性側の訴えを退けた。
提訴したのは、ITシステムを手がけるNECソリューションイノベータ(東京)に勤めていた中正司(なかしょうじ)光幸さん。大阪府内で自家中毒の持病がある長男(13)、白内障などを患った母(77)の3人で暮らす。
中正司さん側は、判決を不服として控訴する方針。NEC側は「主張が認められたものであり、妥当な判断であると考えている」(広報)としている。
判決などによると、中正司さんは別のNEC系の会社に出向して大阪市内の拠点で働いていたが、そこの閉鎖が決まり、19年春に川崎市への転勤を命じられた。応じずに赴任しなかったため、業務命令違反で懲戒解雇された。
中正司さん側は、長男は当時小学校でもたびたび頭痛や嘔吐(おうと)の症状が出て、迎えにいっていたと説明。単身赴任して体調が万全ではない母に長男の世話をまかせるのは難しく、家族で引っ越せば環境の激変から長男の病状が悪化するおそれがあったとし、転勤は無理だったと主張していた。
会社側からは、大阪でのシステムエンジニア職への復帰や清掃会社への出向も持ちかけられた。だが、業務の内容などをめぐって見解の隔たりがあり、いずれも破談になった。
これに対しNEC側は、中正司さんの意向や家庭の事情を考慮し、最大限の配慮をしたとして、問題はなかったと主張。転勤命令は、グループの経営効率化に向けた拠点の統廃合に伴うもので、業務上の必要性があったと反論した。長男の病状が引っ越しによって悪化するかは明確でなく、成長とともに改善に向かう可能性も指摘していた。
企業が社員に転勤を命じるよりどころは、転勤を拒んで懲戒解雇された塗料メーカーの元社員が起こした訴訟で、1986年に最高裁が示した判断だとされる。元社員は夫婦共働きで、幼い子どもと高齢の母と暮らしていた。最高裁は「家庭生活上の支障は通常甘受すべき程度のもの」などとして、解雇を無効とした高裁判決を破棄した。
だが、その後に家庭と仕事の両立に向けた法整備が進んだ。2002年に施行された改正育児・介護休業法は、勤務地の変更で育児・介護が困難になる労働者への配慮を義務づけている。(内藤尚志)
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