さよなら「あんこ」 勇の思い 30日「カムカムエヴリバディ」

土井恵里奈
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 大切な人を思う「さよなら」もある。11月30日の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で、ヒロインの安子(上白石萌音)が選んだのは自立の道だった。

 「この家を出て、朝一番の汽車で岡山を出て、るいと2人で暮らすんじゃ」

 安子の幼なじみで義弟の勇(村上虹郎)はある夜、安子の部屋を訪れて金を渡す。娘を守るには、この家を出ていくしかないのだと。

 戦争で家族を次々に亡くし、身寄りのなくなった安子にとって、嫁ぎ先の雉真(きじま)家は唯一の後ろ盾だった。しかし夫なき家で、安子の居場所は奪われていく。稔の戦死の一報以来、しゅうとめ美都里(YOU)は正気を失い、安子につらくあたる。見かねたしゅうと千吉(段田安則)は、安子に厳しい提案をする。

 再婚し、新しい人生を歩いてほしい。るいは雉真家の子として育てる――。

母子2人の逃避行

 窮地の安子に手をさしのべたのが、勇だった。娘と引き離されずにすむ方法は一つ、ここから逃げること。母と子2人きりの逃避行だ。

 勇にとってもつらい別れとなる。子どものころから安子が好きだった。安子が稔と出会うよりもずっと前から。兄嫁になってもそばで見守り、「義姉(ねえ)さん」と呼んで気持ちに折り合いをつけてきた。

 「あんこーー」。別れの日、夜明け前。見送る勇は安子をこう呼ぶ。最後は昔の呼び名だった。

村上虹郎の演技に深み

 村上虹郎はいつもどんな役にもスッと染まる。映画「孤狼(ころう)の血」シリーズでは外国籍のやくざ役、映画「武曲 MUKOKU」では、恐るべき剣の才能を秘めた少年役。難役でもさらりと自分のものにし、強烈な印象を残す。

 そんな図抜けた存在感の持ち主が、朝ドラでは引きの芝居に徹している。名家の次男坊として、好きな人の義弟として、前に出すぎない。勇が安子を陰から支え続けるように、主演の上白石の魅力を最大限引き立てる芝居が光る。

 村上は、勇の役柄についてこうコメントしている。「日焼けして坊主頭だし、スポーツ少年だし、ふだんの自分とは全然違う感じ」。演じながら、役をもらった意味を理解していったという。

 見てほしいのは「勇の強い部分と葛藤している部分との絶妙なバランス」。戦前戦後の荒波を生きる主人公に寄り添う役の悲喜こもごもが、15分に詰まっている。(土井恵里奈)