北アルプス眼前に車中泊スペース、長野・小川村の「林りん館」
長野市と長野県白馬村の中間にある小川村に、「林りん館」という施設がある。山小屋ホテルがコンセプトだが、駐車場の端に一区画だけ車中泊エリアが設けてある。晩秋に一泊してみた。
遠くの斜面に人家が点在している。早速、たき火台を出して火をつける。今回のたき火台は知人に借りたピコグリル。評判通り薪がよく燃える。湯を沸かし、コーヒーを入れてまず一服。青空の下、鳥の鳴き声が気持ちいい。
「林りん館」の売り物は、そのロケーションにある。特に北アルプスの景観は絶品と言っていい。
「テラスの柵を取っ払ったり、雑木を切ったり。北アルプスの風景の邪魔になるのを全部どけました」と話すのは秋元敏館長(63)。経営を始めて3年になる。「部屋を洋風にしたり、薪の露天風呂を作ったり、1千万円以上を投資しました」
といっても「林りん館」は秋元さんの持ち物ではなく、村の所有。秋元さんが作った一般社団法人が村の指定管理を受けて運営している。
小川村出身の秋元さんは千葉県でIT関連会社を経営していた。そのときに携わっていたのが、「林りん館」のホームページ。60歳を機に秋元さんは会社を2分割し、人に譲って事業を引退する。心機一転、四国霊場八十八カ所を徒歩で巡っているときに「林りん館を経営してみないか?」という話が舞い込んだ。
「8月に話を受けようと決め、2カ月で準備して翌年(2019年)の4月1日にオープンしました。宿泊施設の経営なんて初めてなので、試行錯誤の連続です。翌年、これから本格的にやろうと思ったらコロナでがくんと(客足が)落ち込んじゃって……。ことし10月以降、やっと持ち直してきた感じです」
車中泊エリアを作ったのはこの4月。きっかけは車中泊をすすめる会社に勧められたことだった。1台だけにしたのは、「1台限定にして満喫してもらおうと」したため。キャンピングカーで来る人もいるが、普通の車で車中泊する人もいる。「夏場は毎日のように埋まりましたが、11月に入るとさすがに減りました」
減った理由は寒さ。北アルプスを望む標高800メートルなので、秋に入ると気温が下がる。
日が暮れると赤い月が上った。夜が更けるにつれ、寒さが増す。たき火の炎がうれしい。いすを近づけ手をかざす。大きな薪を入れる。
愛車はライトバンタイプだ。後席を倒し、広いスペースを作る。サーマレストのエアマットを敷き、寝袋にもぐり込んで寝る。寝袋はいちおう冬用なので、いい感じで寝付くことができた。これなら朝までぐっすり、と思ったのだが……。夜中に何度も目覚めた。朝が近づくにつれて寒さが増してくる。窓が多いから寒いのか、などと思いながら寝たり起きたりしていると朝だった。
「北アルプス、よく見えますよ」と秋元さんが声をかけてくれた。デッキに行くと朝焼けの北アルプスが並んでいた。「ここから見る鹿島槍の角度が一番いいんですよ」
秋元さんには一つの夢がある。一帯をヤギの里にすることだ。「ヤギに愛着があるんですよね。ヤギに囲まれていたら幸せです」。今のところ「林りん館」下の牧場に5匹。土地を入手し、牧場を三つに増やす段取りはつけた。構想ではヤギを百匹にまで増やす。「僕、前世は雄ヤギだったと思ってるんです」
車中泊スペースの横には大根の葉っぱが大量に干してあった。ヤギの餌だ。朝の仕事が落ち着くと牧場に行き、宿泊客と一緒に餌を与える。1匹1匹、ヤギの名を呼びながら。「みんな懐いています。かわいいです。家族です」(依光隆明)
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《推しの逸品》 「林りん館」から車で10分、高原の畑にぽつんと小さな一軒家。ジェラート店「SUONO」を営むのは18年前に横浜からIターンした榎(えのき)美加さん。「農業の傍ら喫茶をしていたのですが、アイスを食べるのが好きで……」。3年前、ジェラート店に転換した。
横の空き地でヤギが一匹、のんびりとこちらを向いていた。「ペットです。看板ヤギの『チョコ君』です」。土日祝日の営業で、シングル400円、ダブル450円。残念ながら、ことしは11月28日で営業を終わり、再開は来年4月。
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《小川村の「林りん館」》 小川村の世帯数は約1千。緑の斜面に人家が点在する光景は美しく、「日本で最も美しい村」連合に加盟している。「林りん館」はもともと村の林業関係施設として約20年前に造られた。現在、館内の宿泊室は五つ。車中泊エリアの地面はコンクリートなので、タープを立てる際には注意が必要。館内ではボルダリングもできる。
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