一代の名優の芸と精神継いだ中村吉右衛門さん 素顔は至って謙虚

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編集委員・藤谷浩二
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 中村吉右衛門さんの70年余の役者人生は一本の芯に貫かれていた。母方の祖父は明治期から戦後にかけて活躍した初代吉右衛門。幼少時に跡継ぎを切望する初代の養子になった。「高尚な芸品がありつつ、お客様がどよめく。初代は歌舞伎をそんな舞台芸術にした。名を汚さぬよう必死に歩んだ」。この一代の名優の芸と精神を継ぎ、二代目として高い芸境を築き上げた。

 大看板の名の重圧に耐え、芸と人気を競う日々を「闘い」と表現した。襲名したのは22歳。同世代には尾上菊五郎さんや市川團十郎さんらスターがひしめく。実父の初代松本白鸚や名女形の六代目中村歌右衛門ら戦後歌舞伎の名優たちに教えを受けた。

 若い頃はコンプレックスだったという長身が映える様式美と緩急自在のせりふ回しが観客を魅了した。古典歌舞伎の精髄を墨守し、精妙な心理描写を溶け合わせた。真骨頂は時代物だ。「熊谷陣屋」の熊谷直実は戦乱の世でわが子を犠牲にした悲痛さがしみわたり、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良之助は主君の仇(あだ)討ちをめざす武士の本懐をじっと肚(はら)におさめた。

 初代が磨き上げた「俊寛」で…

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