移動スーパー、全国最多の新潟 記者が同行してみた

小川聡仁
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 車に商品を積み、各地を回って販売する――。業界大手の移動スーパーが、新潟県内で急増しているという。サービスが広がる理由を探りに、この秋、記者が販売車に同行した。(小川聡仁)

 「とくとくと~く とくし丸♪」

 のどかな音楽を響かせながら、ゆっくり進む移動スーパー「とくし丸」。同名の徳島市の会社が2012年から運営し、全都道府県で走っている。新潟県の中部、見附市内で1台に同行取材した。

 午前11時半。1軒の民家の前に止まると、すぐに女性(83)が買い物袋を持って出てきた。販売車が来るのは毎週水曜と土曜のほぼ同じ時刻だが、気づかずに逃すのが怖く、玄関の戸を開けて待っていたという。「とくし丸は命の綱。来なかったら兵糧攻めです」

 女性の自宅は市役所から約1キロという立地。それでも移動スーパーに頼っている。独居で自家用車はなく、足も不自由。約1キロ離れた最寄りのスーパーにはタクシーで行くという。

 移動スーパーには、刺し身やほうれん草といった生鮮食品から、アイスクリーム、いわし蒲焼き缶、生花、ティッシュペーパー、封筒、大根の種など多種多様な品が並ぶ。積んでいる商品は約1200個に上る。ヨーグルトやキャベツなど約2千円分の食品を買った女性は、全品が店頭より10円高い価格設定にも「気にならない」という。「ネットスーパーは配達が翌日になるし、やっぱり現物を見るのが一番」

 「イチジク、あるかい?」。自宅前で腰を下ろし、声をかけたのは小林百合さん(86)。腰の骨折が癒えず、短い距離しか歩けないという。野菜や果物、納豆、みりんなど7千円以上を買い込み、「商品を選ぶのが楽しい」と笑った。

 利用者の中には、ふだんは車で買い物に行くという人も。この日、移動スーパーで総菜など約2千円分を買った女性(72)は、足りない物の「買い足し」に使っていた。冬の吹雪時は車の運転ができず、移動スーパーが「頼み」だとも話した。

 販売車が給油に立ち寄ったガソリンスタンドの女性従業員(53)も「夜7時半まで仕事がある。スーパーに行くと余計な物を見ちゃうし、時間もかかるから」と、パンや総菜、サラダなど約3600円分を購入。利用者2人が買い物をした老人ホームでは、女性職員が「日によって商品が違うので、(利用者の)みんな楽しみにしているんです」と話していた。

 この日、午前10時から午後6時まで、市街地から山間部まで約40軒を販売車で回ったのが販売員の広井義徳(よしのり)さん(55)。「とくし丸」は、徳島市の運営会社と提携した各地のスーパーが商品を仕入れ、販売員に巡回販売を委託する仕組みを採っており、広井さんはその1人だ。昨年1月にこの仕事を始め、市街地でも郊外でも買い物に困る高齢者の存在を感じているという。「車に乗れている人には見えない世界がある」と語った。

 常連客の好みを把握し、言われなくても買い物かごに食料品を入れることも多いそうだ。「『その商品はないです』が少なくなるように積み荷も日々更新しています」と話した。

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 移動スーパー大手の「とくし丸」の販売車は全国で900台以上。徳島市の運営会社によると、創業した12年にはわずか2台だった。販売車の1日の売り上げのうち、約18%が販売員の、残りが提供契約を結んだスーパーの収入となる仕組みとなっている。

 新潟県内では11月時点で46台が稼働しており、運営会社によると、都道府県別では最多。18年夏に佐渡市で1台目が販売を始めた後、3年余りで急増したという。

 その46台のうち、約8割がスーパー「マルイ」(本社・見附市)が契約した販売車。同社によると、もともとは商品の無料宅配事業を展開していたが、経費や現場負担の大きさなどを考慮して移動スーパーに転換。佐渡の「1号車」が好調だったため、同業他社に先んじて県内の販売地域をおさえようと、急拡大させたという。

 1台あたりの売り上げは1日平均約10万円。移動スーパー事業の売上高は同社全体の約2・5%という。同社の矢引敏幸・店舗運営部長は「新潟は車社会。免許を返納したら、即買い物難民という場合もある」といい、「思っていた以上に買い物難民はいて、年々増えている。いまだ県内には移動スーパーの空白地がある」とも。来年3月までにさらに3台増える予定だ。

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 販売車に同行して目についたのは、やはり「買い物難民」とも呼ばれる高齢者の多さだ。

 2020年の国勢調査によると、65歳以上の高齢者がいる世帯は県全体の約51%を占め、一人暮らしに限っても県全体の約11%に当たる約9万9千に上る。15年と比べ、高齢者世帯は1万3千、一人暮らしだけでも1万6千以上増えた。

 農林水産政策研究所(東京)は「(自宅が)店舗まで500メートル以上で自動車利用が困難」という新潟県内の65歳以上の人数を、18万5千人と推計している(15年時点)。05年より約2万3千人増え、約1・14倍となっていた。

 自治体も対策を続けている。例えば見附市は、バス路線のない山間部などで運賃300円ほどの乗り合いタクシーを運行しており、昨年度は延べ4418人が利用した。ほかにも、移動販売や買い物代行を支援する自治体がある。

 また、見附市はスーパー「マルイ」と、高齢者の見守り協定を結んでいる。1月には、移動販売車の販売員からの連絡で、独居の高齢男性の死亡に気づく事例があったという。

県内自治体の「買い物難民」対策の例

《見附市》

・高齢者向けに弁当宅配料を支援。約65人が利用(11月現在)。

・山間部などで、運賃300円ほどの乗り合いタクシーを運行。

糸魚川市

・移動販売事業者に補助(月4万5千円を上限に支給、車両購入費も200万円を上限に半額補助)。

魚沼市

・高齢化率の高い地区で、高齢者の買い物代行に手当を支払う。利用者は1回100円を払って買い物を頼める。

阿賀野市

・高齢者グループを対象に、地元の市場や商店街までの送迎車を無料運行。