「本人も風になって…」 名曲誕生の地、新井満さんが残したもの

阿部浩明

 北海道七飯町在住の芥川賞作家新井満さんが3日、75歳で亡くなった。自宅周辺の大沼公園を愛し、名曲「千の風になって」も大沼湖畔の森の中で生まれた。妻の紀子さん(74)は「ついに本人も、風になってしまいました」と悔やんだ。

 新井さんは自宅で体調を崩し、函館市内の病院に入院していた。紀子さんによると、知人らから気遣いの電話が入るたび、ベッドの新井さんは言葉がだんだん少なくなってきて、最後はひと言「ラブ&ピース」とだけ答えていたという。

 紀子さんは「皆さんのそばで風が吹いたら、新井満だと思って、『こっちは元気だよ』って声をかけていただけたら、本人は喜ぶと思います」と話した。

 「千の風になって」はテノール歌手の秋川雅史さん(54)の歌声でミリオンセラーとなり、2007年には日本レコード大賞作曲賞に輝いた。秋川さんが最後に話したのは昨年秋。「コロナで仕事がなくなって、秋川君も大変でしょう」と気遣ってくれたという。

 秋川さんは「新井さんは父親のような存在でした。秋川にとっての名曲ではなく、世の中にとって必要とされる曲を生み出してくれた。これからもその意思を受け継いで、必要とする人たちの心に歌が届くよう、大切に歌っていきたい」。

 大沼湖畔には千の風モニュメントが設置され、「名曲誕生の地」と刻まれている。多くの観光客が訪れる観光名所の一つになっている。

 新井さんは七飯町の人たちとも親交を深めた。昨年春には、4小中学校が統合し9年制の義務教育学校としてスタートした大沼岳陽学校の校歌を作詞・作曲。人生の「航海術」となる言葉を集めた自著を7年生(中1)全員に贈り、「7年生は9年間の中の単なる1学年ではない。中学生となった大切な節目を、晴れやかな気持ちで迎えてほしい」と門出を祝福した。

 七飯町の中宮安一町長は「町自慢の大沼を全国に広めてくれるなど、多くのものを残してくれた。もっともっと長生きして、大沼岳陽学校の子どもたちの成長も見てほしかった」と悼んだ。(阿部浩明)