新温泉町、ビジネスで沸かす 弱る観光地、誘致奮闘

鈴木春香
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 企業や個人を町外から招いてビジネスを作ってもらう取り組みに、新温泉町が力を入れている。休暇先で働く「ワーケーション」の一形態だが、全国的にもまだ事例が少ないとされる。住民も観光客も減り続けて弱る地域を支えるべく、町は模索を続けている。

 9月下旬、新温泉町三尾の沿岸部にある旧保育園。8人の女性たちが名産の天然わかめを広げ、乾燥機に次々と運び込んでいた。旬の5月に採って保存しておいたものだ。「昔は浜一面のスノコに一枚一枚わかめをかけて乾燥させたんですよ」。作業をする「御火浦村おこしグループ」の代表、脇本松夫さん(73)らが説明してくれた。

 ここで作るわかめやイカの加工品の一部は昨冬から今春、東京ですし屋を営む会社「酢飯屋」に買い取られ、店舗の料理に使われたりネットで販売されたりした。数量は少ないが、主な売り先だった道の駅での売り上げがコロナ禍で減少したこともあり、地元は新たな販路として期待する。

 きっかけは昨年実施された、首都圏などの事業者らを町に招くモニターツアー(視察旅行)だ。参加した同社の岡田大介代表(42)は、暮らしに密接した三尾のわかめの歴史などを聞いてグループの人らと度々交流するうち、取引を決めた。「天然わかめは希少性が高く価値がある。店で食べた人も喜んでくれました」。今後も取引を続けたいという。

 町ではこうしたツアーが昨秋から今春にかけ計5回実施された。滞在期間は数日から1カ月。温泉宿に滞在しながら町の人と交流し、地域が抱える課題の解決につながるビジネスなど継続して関係を持てることを考えてもらう。ある回では定員30人のところに約100人の応募があった。

 三尾の海産物以外にも、繰り返し訪れた事業者の中から、町をオンラインで体験する旅行商品や、町内での企業研修などいくつかの事業が生まれたという。

 滞在中の宿泊や飲食による経済効果に加え、町を気に入ってくれた人がSNSで情報発信してくれる副次的な効果もあった。「人を呼びこむ方法が『観光客』でなくてもいいんだと、町の人の意識が少し変わった」。地域の活性化を担当し、企画に関わった町おんせん天国室の福井崇弘室長(52)はそう感じている。

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 新温泉町の人口は約1万3千人。2015年から20年の間に10%減った。県内で2番目の減少率だ。町を代表する観光地、湯村温泉の宿泊客数は90年代に30万人以上いたが、19年度には18万人に。商店街もじり貧で、観光振興以前に買い物をする場所など日常機能の維持が課題になっている。

 福井さんが、なんとかしようともがいていた18年ごろ、目を付けたのが「ワーケーション」だった。他自治体の例を参考に、企業の保養拠点誘致を図った。ただ、県北西部に位置する新温泉町は全国の他の観光地に比べ首都圏からのアクセスが悪く、知名度も高くない。誘致は思うようにいかず、たどり着いたのが、地域の課題解決に貢献できるビジネスをつくる今の形だった。

 折しもコロナ禍で多様な働き方が注目され、ワーケーション関係の補助金が充実した。昨年度から今年度に実施したモニターツアーやワークスペースの整備費など、民間を含めた町のワーケーション関係の費用見込みは計4億円ほどにのぼるが、多くは国の補助金や交付金で賄った。

 ただ、課題も多い。生まれたビジネスの多くは単発で、持続的に収益があがるものはまだ出ていない。町の働き盛りの年代は消防団など地域を維持する役割に手いっぱいで、事業を継続して担う人材がいないことが大きいという。

 湯村温泉の中心部に整備した机やテレビ会議用の設備が整うワークスペースの一部では、月に数人しか利用者がいないなど、投資が効果的に使われていない実情もある。町は今後もいくつかのモニターツアーを予定しているが、福井さんは「補助金が切れる前に持続可能なモデルをつくらなければならない」と危機感を持つ。(鈴木春香)

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 観光庁は、新温泉町のような取り組みをワーケーションの「地域課題解決型」と呼んでいる。ただ数はまだ少ないという。担当者は「著名な観光地でない場合、どんな価値を打ち出して事業者を呼ぶか各地の自治体で模索が続いている。ビジネスを作るというのはその方策の一つ」と話す。

 新温泉町のモニターツアーを県から受託した東京のIT企業「ノヴィータ」の小田垣栄司会長によると、大事なのは「規模感」だ。「地方でビジネスを作るというと大企業をイメージしがちだが、小さい町では量を用意できない。注目すべきは小規模でとがった商品や地方のストーリーを求める事業者や個人です」。

 うまくマッチングするには、地元の課題を具体的に把握し、解決策を提示できそうな人を引き合わせる橋渡し役が必要になる。小田垣さんは但馬出身で今回は双方に人脈があった。今後はその役割を各地域の地域おこし協力隊が担うことを提案している。

 同社は今後、朝来・養父両市や他県でもツアーを計画している。「一度つながりができれば、補助金がなくなってもオンラインなどのやりとりでビジネスの継続はできるはず」