ゾンビにコカインに31トン… サッカー母国で起きた「国家の恥」

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ロンドン=遠田寛生
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 なんて日だ。

 7月11日、英ロンドン。イングランドのサッカー関係者の間では、そんな言葉が飛び交った。

 サッカーの聖地と呼ばれるウェンブリー・スタジアムで、欧州選手権(ユーロ)の決勝が行われた日だ。イングランドは先行したものの、追いつかれ、延長PKの末、イタリアに敗れた。

 イングランドが同地で開催された主要大会の決勝に残ったのは1966年のワールドカップ以来。歴史的な瞬間を迎えられず、多くの人が頭を抱えた。

 しかし、惨劇はこれだけではなかった。スタジアムの外では、壮絶な場外戦が繰り広げられていた。

 12月3日、当日の報告書が発表された。すると、スタジアム関係者たちがチケットを持たない何千人という「暴漢」と戦っていたことが明らかになった。

 報告書を担当したのは、かつてのキャメロン首相らの依頼でこれまで何度も英政府の調査と分析を担当してきた独立顧問のルイーズ・ケーシー氏。イングランドサッカー協会(FA)やスタジアムの関係者らの聞き取りから、監視カメラ映像を4千時間以上見直し、7700人以上の観客からアンケートをとるなどして調べた。結論として、試合当日についてこう記している。

 「国家の恥をさらけ出した日」

 128ページの報告書にある舞台裏から、主な出来事を九つに分けて紹介する。

①狙われた障害者用通路口と非常口

②8/17 「ゾンビ」との激しい攻防

新型コロナウイルスと経験値

④アルコールと麻薬

⑤火に油注いだ通信障害

⑥遅かった警察の到着

⑦「ハイジャック事件」

⑧「イングランド負けて」関係者の願い

⑨「オリンピック・ウェー」と31トンの廃棄物

①狙われた障害者用通路口と非常口

 試合当日、観客は約6万7千人。だが、周辺には10万人近い人の流れがあった。

 来場が始まった午後4時58分からわずか3分後、緊張が走る。チケットを持たない人が入ろうとしたところをスタッフが取り押さえた。

 これは序章に過ぎなかった。勝てば55年ぶりの歓喜だ。ありとあらゆる場所から「攻撃」を受けていた。

 ケーシー氏は「最も狙われたのが、車いす利用者が使う通路口だった」と説明する。

 スペースが広いため、車いす利用者が入ろうとした瞬間や、取り押さえられた侵入者がつまみ出されるタイミングを狙われ、すり抜けられた。先に中に入った侵入者がドアを開けて招き入れたケースも散見された。

 「およそ2千人がチケットを持たずにスタジアムに入った。うち400人ほどは追い出された」

②8/17 「ゾンビ」との激しい攻防

 試合開始90分前から試合終了のホイッスルが鳴るまで、侵入行為があった17のゲートのうち8カ所は防げた。勇敢な警察官や会場スタッフのおかげだった。

 だが、金属製の壁をはがして…

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