牛の爪を削る削蹄師 「ただの爪切り屋にはなるな」と親方に言われて

三宅梨紗子
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 慣れた手つきで牛にロープをくくり、落ち着かせるために「ガム」と呼ばれる鉄製の板をかませた。牛の脚を脇に持ち抱え、ナタやかま型の刀を次々と持ち替えて素早く爪を削っていく。15分ほどで牛1頭の爪が整った。爪がきれいになった牛は、なんだかすっきりした表情だ。

 牛の蹄(ひづめ)(爪)を削り、整える「削蹄(さくてい)師」。木下栄政さん(42)は、10月に広島市佐伯区であった削蹄の技術を競う中四国大会で優勝した。

 「人生の分岐点」は25歳のとき。手に職をつけたいと思っていたころ、妹の嫁ぎ先の農場で削蹄師の仕事を見学した。そこで、親方となる日本装削蹄協会理事の佐伯峰雄さん(66)に出会う。

 佐伯さんに弟子入りし、削蹄師の道を歩み始めた。最初の1年間は牛のフンを掃除したり、道具の準備をしたりする日々。2年目から徐々に削蹄を経験し、5年目で日本装削蹄協会の定める「1級認定牛削蹄師」の資格を取得した。さらに10年かけ、最上級である「指導級認定牛削蹄師」になった。

 蹄の長さや形を整えることは、牛の健康維持に欠かせない。乳牛の場合、半年に1回削蹄するのが望ましいという。500~600キロある体重を支える蹄には相当な負荷がかかる。のびすぎた蹄や、蹄の病気をそのままにしておくと、うまく立てず、エサも食べられなくなる。

 親方には「ただの爪切り屋にはなるな」と言われる。「お客さんは牛。言葉はないけど、心で通じ合う。牛のために、牛に合った削蹄をしていきたい」

 削蹄師の世界では後継者不足が深刻だ。広島県内の牛削蹄師は、現在約10人。30年ほど前から半減しているという。一方、男性がほとんどだった世界に女性の削蹄師も増えてきた。「削蹄師の仕事を知ってもらって、若い人を育てていきたい」。次は自分が技術を継承していく番だと思っている。(三宅梨紗子)

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 広島県安芸太田町出身。農家や獣医師との兼業も多い削蹄師を専業にしている。趣味はスケートボードと海釣り。休みがあれば長崎の群島まで赴く。マグロやクエを釣り上げたこともある。