最古の矢入れ「靫」か 滋賀の遺跡で漆塗り繊維製品出土

筒井次郎
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 弥生時代末期~古墳時代初め(3世紀)の大規模集落跡・稲部(いなべ)遺跡(滋賀県彦根市稲部町)で、矢を入れる武具「靫(ゆき)」の一部とみられる漆塗り繊維製品の断片が約10点見つかった。調査の結果、3世紀のものと判明。これまで確認された靫は主に4世紀のもので、国内最古の可能性がある。

 同市文化財課の戸塚洋輔さんや関西大大学院非常勤講師の森岡秀人さんらの研究チームが、9月に開かれた日本文化財科学会で発表した。

 断片は2019年9月、宅地開発に伴う350平方メートルの発掘調査で見つかった。集落の居住域の端に掘られた溝で約10点の断片(長さ2センチ~20センチ)がまとまって出土した。同時に見つかった土器の特徴や、繊維製品の放射性炭素年代測定から3世紀のものと判断された。

 繊維製品は帯状の織物で、素材は絹と植物繊維。縦糸が2本の横糸の上を越えて次の横糸の下に通っており、現代のデニム生地にもみられる「綾(あや)織り」という技法が用いられた。表面に漆を塗り、耐久性を高めたとみられる。

 一方、靫は矢尻(矢の先端)を上向きにして矢を収納する細長い箱状の武具。背負って使われたと考えられ、背負う際、体に固定するためにひもで結ぶ。

 今回出土した繊維製品にはこのひもを通す部分も含まれ、奈良県御所(ごせ)市の鴨都波(かもつば)1号墳(4世紀)に副葬されていた靫のひもを通す部分とも形がよく似ていた。

 靫は全国で30例ほど確認されている。4世紀の古墳の副葬品がほとんどで、今回の繊維製品はそれより古い国内最古となる可能性がある。

 稲部遺跡は、JR稲枝駅の北西に広がる大規模集落跡。これまでの調査で、188平方メートルの大型の掘っ立て柱建物や多くの竪穴住居、青銅器の生産に関わる工房の跡も見つかり、各地と交易する琵琶湖東岸の拠点集落だったとみられている。

 戸塚さんは「今回見つかった漆塗り繊維製品は大変手が込んでいる。材料を調達する必要があり、高度な技術を持った職人もいなければ作れない。靫とすれば、希少な武具であり、強い権力を持った人物が使用した可能性がある」と話す。

 現地説明会はない。(筒井次郎)

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 関西大大学院非常勤講師の森岡秀人さん(考古学)の話 今回の漆塗り繊維製品は、遺跡の中のやや高台となる場所で出土した。聖域的な様相をみせる所で、集落の中でも特別な場所のように思える。

 東海と近畿の要にある地域で最上位の首長が、生前に威儀具(いぎぐ、権力を誇示する道具)として所持した武具で、日本列島最古と考えられる。

 高度な技術から専業工房で製作されたことは確実だ。出土例のほとんどが4世紀の古墳だったが、今回は古墳出現前の3世紀の集落跡である点も非常に興味深い。