「本当にあったこと」語り出した97歳 同胞に殺されかけた帰国前夜
80年前の12月8日、太平洋戦争が始まった。長野県上田市出身の依田安昌さん(97)は当時、中国・北京で気象観測の仕事をしている際に日米開戦の前兆に接した。「自決」を覚悟し、敗戦後なお同胞からも命を狙われた体験を振り返った。
依田さんが軍属として北京にある気象観測の施設に赴任したのは1940年。2階建ての庁舎は元々、現地の大学だった。屋上で風向計を確認し、無線で送られてくる信号のデータを元に天気図を書き起こすのが日課だった。気象情報は飛行経路を決めるためなどに「絶対に必要なもの」だった。
ある日、職場の隣の通信室から聞いたことのない「暗号」が流れてきた。いつもは5人1組でつくる天気図が、3組で半日かけても終わらない。20日ほど過ぎ、「アメリカとの戦争が始まった」と聞かされた。
戦局が悪化する1944年、依田さんは徴兵検査を受け、衛生兵になる。その翌年6月のことだった。
夕食後にトラックで中国東部、敵地の奥まで移動した。どこまでも平らな大地に日が沈んだ頃、戦闘が始まった。負傷兵が出ると、依田さんは菜種油の火を頼りに止血した。その明かりを目がけて、コロ、コロ、コロという音とともに手榴弾(しゅりゅうだん)が投げ込まれた。
部隊長は死に、指揮系統は乱…
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