アナザーノート 藤えりか記者
現金給付やマイナポイント付与のほか、巨額の事務費が生じるクーポン支給まで盛り込み、財政支出が過去最大となったコロナ禍の経済対策。案の定、政府がしきりに唱える「賢い支出」や「エビデンス(証拠)に基づく政策の企画立案(EBPM=Evidence―Based Policymaking)」からはほど遠いと批判が上がり、効果を疑問視する声が早くも上がっている。経済対策が出るたび、こうした繰り返しの感が否めない。だったら日本も、例えばオランダのような取り組みをしてみるとよいのでは――。
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この秋、オランダの人たちにオンラインで取材を重ねた。所得や資産を持たない人に最低所得保障として現金を配る、「最後の安全網」としての公的扶助のあり方を考えるため、同国の6自治体などが2017年(一部18年)からそれぞれ約2年実施した社会実験についての取材だ。今年11月7日付朝刊「Sunday World Economy(https://digital.asahi.com/articles/ASPC47RLVPBVULFA00R.html)」で記事にした。
現行制度への批判から生まれた社会実験
実験は、「公的扶助の受給者を減らしたいなら、今の制度はかえって逆効果」という、自治体や研究者、受給者らの批判や不満、危機感に突き動かされて始まった。
オランダは「寛容の国」として知られ、欧州の「経済の優等生」でもあったが、経済危機の中で公的扶助受給者が年々増え、政府が「従来型の福祉国家は持続不可能」「自助を」と唱えるようになった。受給者を減らそうと社会保障制度改革を進め、新たな公的扶助制度を15年に始めた。21歳以上の単身者に生活扶助として月1千ユーロ(約13万円)超を給付する代わりに、罰金・罰則つきの義務でがんじがらめにした「北風でコートを脱がせる」制度だ。
南東部ナイメーヘンに住む映画製作者・脚本家のジャック・フィラさん(66)は蓄えをつぎ込んだプロジェクトが行き詰まり、今の制度が始まった15年に公的扶助を仰いだ。「所得や資産がないかどうか、毎月書類を出して報告しなければならず、提出が1日でも遅れたら給付を止める、と言われる。職探しへのプレッシャーも、ものすごい」と、フィラさんはビデオ会議システムの画面越しに話した。
フィラさんは「これだけ義務によるストレスやプレッシャーが過ぎると、職探しもうまくいかない」とこぼす。30代だった1992年にも一時、仕事を失い公的扶助を受けた経験があるだけに、そう感じるという。当時は受給額が今より3割ほど少なかったが、同時に義務などもあまりなく、役立ちそうな研修も市から案内され、ほどなく、自分で稼ぐ状態に戻ったという。年齢も経済状況なども今とは違うとはいえ、プレッシャーがないのは大きかったといい、「大変な状況から立ち直り、次のプロジェクトに進む助けになった」とフィラさんは振り返る。
「受給者の現実を知らない官僚」も招いた実験
ナイメーヘンの実験プロジェクトマネジャーで市政策アドバイザー、ヤノス・ベトコさん(41)は「今の制度は受給者を信頼しない形になっている」と批判する。「受給者が定期的に求職活動をしているか、仕事のオファーがあったらちゃんと受けているか、役所がチェックしなければならない。しかも制度がとても複雑で、不正でないミスであっても重い罰金を科される。就労促進というワークフェア(workfare)の考え方も、行き過ぎると、多大なる結果を招く」
実際、15年以降も公的扶助…
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