「会いたい」仲のいい妹からの電話 バス代440円が惜しかった

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平川仁
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 2016年の秋ごろだったと思う。金沢市内で一人暮らしをする真田芳弘さん(現在75歳)の携帯電話が鳴った。

 三重県に暮らす5歳下の妹だった。金沢駅前のホテルにいるという。「会いたい」。理由はよく分からないが、そう言われた。

 数カ月前に母親を失い、妹が連絡の取れる唯一の身寄りだった。小さい頃から仲が良かった。

 「小学校の時に、おれが家から閉め出されたわけよ。門限守らなくて。そしたら妹が泣いてくれてさ。『兄ちゃんを家に入れてくださぁい』って。なんか気が合ったんだよなぁ」

 金沢市内の実家は、終戦直後で貧しかった。研究者になりたい気持ちもあったが、「大学は性に合わない」と、高校を出てすぐに就職した。妹を高校に行かせるためでもあった。

 そんな妹とは時折、電話やメールでやりとりはしていたが、ここ2年ほどは会えていなかった。ただ、この日の電話は突然すぎた。

 電話があったのは昼ごろ。バスの本数は少なく、妹を待たせることになる。しかも家から駅までのバス代は、往復で440円もかかる……。

 真田さんは、09年から生活保護を受給している。国民年金と合わせた月収は、10万円程度。家賃3万2千円、築40年超の木造アパートに暮らし、食事は1日1~2食に抑える。冬場はエアコンをほぼつけず、室内でもニット帽をかぶり、上着を2、3枚重ね着してやり過ごす。

 そんな身に440円は惜しかった。「無理だよ」。また会えると思っていた。断った。

 それが、最後の会話になった。

のちに妹の元へ駆けつける真田さん。記事の後半では、暮らしぶりが一変する人生模様を紹介します。

ウソだろ……思考が止まった

 1年後の秋ごろだったと思う…

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    清川卓史
    (朝日新聞編集委員=社会保障、貧困など)
    2021年12月13日18時2分 投稿
    【視点】

     憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の水準がどこにあるのか。様々な意見があると思います。  ただ、2013年以降の生活保護基準引き下げの根本的な問題のひとつは、戦後最大という大幅引き下げの決定にあたり、制度を利用する当事者の声